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いつのまにか法律が改「悪」されて……
大人になって読み返してあらためて思ったのは、この物語は、単にソビエト連邦(ロシア)の話でなく、過去の話でもなく、今の日本にもあてはまることがたくさんあるのではないかということ。
物語の後半、「すべての動物は平等である」という最も大切な戒律が、動物たちの気がつかないうちに、権力を握った狡猾な豚によって「ある動物はもっと平等である」と書き変えられます。次々に法律が改「悪」されても、それに気が付かずに従い続ける動物は一見愚かですが、これは実は私たちの国でもよくあることではないでしょうか。派手なニュースに目を奪われているうちに、その陰に隠れて重要な法案が可決されていたり、年金がやけに複雑な仕組みになってさっぱり状況が見えなくなり、その背後で使い込まれていたり……。気がつけば「なんだか、やな感じだね」ということばかり。だから、動物たちを「過ちを繰り返すなんて、過去の教訓を忘れすぎ!」なんて簡単に馬鹿にできない。
「アニマル・ファーム」は、希望のない話です。権力の座にある豚が最後まで打倒されない原作はもちろんですが、ほかの動物たちによって打倒される映画版にしても、革命が起きてリーダーが変わったところではたして事態は変わるのか、という思いが残ってしまいます。
でも、安易にハッピーエンドにしなかったところが、「アニマル・ファームの」大きな魅力なのかもしれません。自分たちの生きている社会の問題は、どこかの誰かに任せておけば解決できるわけではない。いつまでも為政者のせいにするのではなく、自分の生活は自分でよくする、つまり自立することを考えないといけないというメッセージとして受け止めることもできます。これは、一見反対にも見える原作と映画のラストに共通しているのではないでしょうか。
秀島 史香
ラジオパーソナリティー。
高校卒業時までアメリカに在住。
J-WAVE「GLOOVE LINE」のDJをはじめ、TV・映画・CMナレーション、通訳や字幕翻訳など、活動は多方面にわたる。