2000年09月


09月01日(金)
12時から二馬力内でカフェの第1回試食・試飲会が開催された。
対象はビールとジュースなどの飲み物類とホットドッグを中心とした軽食。ムゼオの全スタッフが弁当を返上して試食に励んだ。大変だったのはピルスナー他5 種類以上ビールの試飲。一口づつなめる程度かと思いきや、ビール会社の人から「香りと泡を楽しんでいただくためにコップいっぱいにつがせてもらいます」と言われ、盛田さんや北嶋さんなどビール好きの面々は歓声を上げていたが、酒に弱い人やすぐ顔が赤くなる人は困っていた。
すぐ顔が赤くなる吾朗さんは、4時から現場で打ち合わせがあるにも関わらず、たちまち真っ赤に変身。貧乏性の橋田さん他数名はビールを残す事ができず全部飲んでしまい、午後からは仕事にならなかったらしい。
さらに石光さんは、ホットドッグ大1本半とトウモロコシ、ラスクなど炭水化物系を大量にほおばり、宮崎監督からチェックが入っても「そんなに食べてないもん」と否定。その後も窓の外の空を見つめながらトマトをアライグマのように両手で持って食べていた。
果たしてこんな状態で正確な試飲の感想は書けるはずもなく、「苦い。甘い。好き。嫌い。」などのボキャブラリーに乏しい言葉が並び、宍戸さんを悩ませていた。


09月02日(土)
美術館ユニホームの打ち合わせのため、ジャケットやコート、ベストなどさまざまなタイプのサンプルを小葉松さんが持ってきた。
アパレル業界出身だけあって、小葉松さんの用意したものはさすがにみなおしゃれで、デザインがひと味もふた味も違う。早速ムゼオのスタッフがモデルとなって次々に試着が行われた。しかしそれらを着こなせる人が一人もいない。オレンジのコートを着た橋田さんは浮浪者のよう。白の厚手のベストを着た宍戸さんは、今朝美容院で刈り上げてもらったばかりで、ライフジャケットを着た少年みたい。ちょっと長めのコートを着た北嶋さんはまるでヤンママ。
二時間もかけてわいわいやったあげく、結論はまた先延ばし。いつになったら美術館のユニホームは決まるのだろうか。


09月04日(月)
一階常設展示室に飾る○テラノ○ンの模型の縮小版が届く。その出来栄えに展示スタッフは大喜び。細かいところまでていねいに作りこまれていて、グロテスクな感じが良く出ている。これを元に全幅およそ2メートルサイズで模型を作る。
この迫力がそのサイズになるのかと思うとわくわくする。


09月05日(火)
女優の紺野美沙子さんがジブリに来社。ジブリの屋上庭園と来年開館する美術館の緑地をテレビ番組で紹介するためらしい。設計の責任者である吾朗さんは、忙しい中、現場からジブリに舞い戻り取材に対応。紺野さんとテレビカメラを前に緊張した面持ちだったが、次第に話す言葉にも力がこもってきていた。取材の合間には紺野さんに、取材場所の二馬力自慢のスピーカーを使って音楽を披露するほどのリラックスムードに。会話の内容は、10/18(水)19:54から 12CH「東京色」で放映予定。


09月06日(水)
最近ムゼオで「ダイエット同盟」なるものが結成された。参加者は、わき腹に肉がつき「ボンレス状態」と同僚からセクハラまがいの言葉を浴びせられた人や、ストレスゆえバカ食いをして太ってしまった人、あるいは写真に写った自分の「二の腕」を見て愕然とし、一念発起した人などさまざま。聞くところによると同盟の規約は「1日に1.5L以上の水を飲む」これひとつらしい。いまのところ毎朝駅前の99円ショップでペットボトルを調達し、ミネラルウオーターをせっせと飲んでいるが、いつまで続くことやら。参加者の中には、夕方になっても水が1/3しか減らず、早くも脱落しかかっている者もいる。しかもこの規約の出所は、最近テレビで紹介していたものらしい。なんと単純な。ジブリで行われていたダイエット競争の二の舞にならないことを願う。


09月07日(木)
引越し担当の橋田さんと、三好さん、石光さんの3人が普段より早起きをし、某ホームセンターへ。緊縮財政のもと吾朗さんから「よいものを、より安く」という厳命を受けた3人のお目当ては、当日限定目玉商品の自転車。東小金井の第3スタジオと隣駅武蔵境のムゼオ新事務所との往復に使うものだ。1台分の料金で2台買える安さに加え配送料も節約しようと、行きは車で3人乗り、帰りは橋田・三好の両名がそのまま買った自転車に乗って走るという作戦だ。無事自転車を買い、ついでに弁当や石光さんのお菓子を買い込んでおよそ20分弱という道のりを自転車組が出発。しかし道半ばで橋田さんは早くもバテ始め、会社近くのバーミヤンが見えたときはうれしさのあまり「あー、バーミヤンだ」と思わず歓声を上げ、事務所に戻ったときは顔面蒼白、虚脱状態で、安西さんが何を言っても反応が鈍かった。一方、一昨年のツールド信州でジブリ唯一の脱落者という不名誉を背負った三好さんは、今年のリベンジを誓ってさっそうとママチャリを走らせ、バテ気味の橋田さんを尻目に「きもちいい」とハンドルを左右にゆすりながら楽しそうだった。


09月08日(金)
ここのところカフェの準備が着々と進んでいる。先日は、四方八方手を尽くしてもなかなか見つからなかった「麦の穂ストロー」を作ってくれる取引先(なんと大分県の個人)がインターネットで見つかった。年間10万本という莫大な本数の麦ストローの制作に応じてくれそうな雰囲気である。発注方法などまだまだ予断を許さないが、カフェ担当の宍戸さんは希望が見えてきた様子。今日は、食事用オリジナル絵皿のサンプルが出来上がってくる。映画の場面をあしらったものやワンポイントものなど、仕上がりもなかなかよく、いまから盛り付けをした姿が待ち遠しい。まだ最初のサンプルということで、イメージと異なる部分にはエツ子さんが製作元に色、かたち、バランスなどを事細かく指示していた。同席した宮崎監督以上のこだわりで指示出しをするエツ子さんは、夢見る乙女のように目が輝いていた。


09月11日(月)
吾朗さん、盛田さん、西方さん、橋田さんの4人は、ジブリの鈴木プロデューサーと今後の美術館運営について打ち合わせを深夜にわたって行う。終わったのは1時半過ぎ。とっくに終電は行ってしまったのでタクシーで帰ることになった。
これから先、オープンまでこのような状態が続くことを見越してか、鈴木さんと吾朗さんは、独身の西方さんに「この辺に引っ越したら」と温かい?アドバイス。鈴木さんのこんなアドバイスを受けて会社の近くに引っ越した人は数知れずという噂だ。
すかさず西方さんはローン地獄に苦しんでいる橋田さんに「僕より遠い橋田さんこそ家を売って、こっちで家借りた方がいいですよ」などと言って降りかかった火の粉を振り払うのにやっきになっていた。


09月12日(火)
「もののけ姫」の原画を調布の倉庫に運ぶため、ジブリの制作スタッフとともに石光さんと三好さんが原画の入った箱の掃除をする。
長い間たまったほこりを雑巾でぬぐい、ジブリの玄関まで運ぶ作業をおよそ30箱分こなした。
日ごろから過酷な業務をこなしているジブリ制作陣に比べ、軟弱者のレッテルを貼られつつある三好さんはすっかり息が上がっていた。こんなのでツール・ド・信州は大丈夫なのだろうか。


09月13日(水)
いよいよ明日、慣れ親しんだ二馬力を離れ、新事務所へ引っ越すことに。
二馬力の篠原さんの発案で、「最後の晩餐」が二馬力で催された。篠原さんが腕によりをかけたご馳走を前に宴は大いに盛り上がる。
そして今までお世話になった御礼に篠原さんにお花が贈られた。もちろん花を用意したのは、銀座のママさんに贈りそうな花束を昨年のクリスマスに篠原さんへ贈った小葉松さん(昨年のH.P.参照)。今回は昨年の轍は踏むまいと石光さんについてきてもらって花を買うという念の入れよう。
しかしこの二人は買い物に出るだけで事件になる。「小葉松さんが迷子になった」と石光さんから二馬力に電話がかかったかと思えば、5分後には「石光さんが迷子になった」と小葉松さんからの電話。携帯のお陰でなんとか2人は会えたそうだが、どちらも「迷子になったのは自分じゃない」と譲らない。結局真相は謎のままだった。
ともあれ無事普通の花を贈ることができ、めでたし、めでたし。


09月14日(木)
朝8時45分から二馬力と新事務所とに分かれて引越し作業を行う。
といっても、前日までにほぼ梱包は終わっていたので、後は日通さんにおまかせ状態。「もっとゆっくり来てくれてよかったんですよ」と、わざわざ早起きをしてきた盛田さんに気を使っているつもりの橋田さん。すかさず「それじゃ、まるで盛田さんが役に立たないみたいじゃない」と篠原さんに指摘されていた。
一方、新事務所で什器搬入に立ち会うはずの西方さんはうっかり寝坊して遅刻。渡辺さんがいたので業務に支障はなかったが、普段の彼からすると珍しい? いや、そういえば前日の夜、早起きは自信ないとこぼしていたなあ。
吾朗さんは社長らしく椅子に座りじっと見守って…なんてことはせず、力仕事に掃除、什器類の組み立てと休む間もない。
小葉松さんと宍戸さんは食器や備品の買出し。引越し作業の手伝いを逃れたため喜びいさんで出かけたが、大荷物を抱えてげんなりした顔で帰ってきた。口うるさいムゼオスタッフに文句をいわれない「安くていいもの」を買おうとあちこち探し回ってへとへとになったらしい。
こんな具合でなんだか開館前後の美術館の姿を暗示するような1日だった。


09月16日(土)
新事務所初日。まだ片付けが残っている人もいて、ざわついた1日となった。
事務所は8Fにあるため眺望もよく、新宿の高層ビルまで見渡せる。ビルが線路脇に建っているため、台風の影響で電車がストップしたかどうかも一目でわかる。ビルにはコンビニ、ファミレス、本屋、ビデオショップ、喫茶店や医院などがテナントとして入っているため利便性でいったらこの上ない立地だ。
が、みなの表情はなぜかさえない。ぜいたくなのはわかっているが、田舎から急に都会に出てきた戸惑いが隠せないからだ。
「オフィスやなー」とおととい吾朗さんが同じビル内のファミレスで、ぽつりとつぶやいたこの言葉がみんなの気持ちを代弁していた。


09月18日(月)
新事務所での仕事が今日からスタート。しかしまだなれないためかいろいろと不都合なことがおこる。
そのひとつは、電車で一駅分、歩いて20分弱という3スタ、ジブリまでの微妙な距離だ。二馬力からだと歩いて1分なので、電話で済ませられない打合わせや資料の受け渡しなどに不便を感じることはなかったが、この距離だとそうはいかない。移動用に自転車を3スタと新事務所で1台づつ買ったのだが、スタッフ間で自転車の争奪戦が起こっている。2人以上で出かける時がやっかいだ。
今日の夜も吾朗さんと西方さんはジブリに急遽打ち合わせにいくことになり、1台の自転車で仲良く出発。会社の社長と総務課長で背中をぴったり重ねた二人乗り姿を見ていた橋田さんは、あまりにも物悲しく思ったらしく、「早くもう1台買いましょう」としきりに叫んでいた。


09月19日(火)
新事務所の裏手、徒歩30秒のところに「本日の定食500円、カレー時価」の看板が立つ不思議な店がある。ここの名物はもちろんカレー。カツカレーとチキンカツカレーがなんと200円(但し、大盛りはなぜか650円)。しかしこのカレー、いつ行ってもあるわけではない。ご主人の気分次第でたくさん作るときもあれば、全く作らないこともあるらしく、12時に行ってもめぐりあえないことが多い。
実際ムゼオのスタッフは3度目の正直で今日やっとありつけた。量は少なめだが、カツはたくさん入っているし街の食堂のカレーといった趣で評判は上々。出てくるタイミングも「吉野家」真っ青の早さ。ローン地獄に苦しむ橋田さんは「貧乏人の味方だ」と感動し、ちょくちょく通うつもりらしい。


09月20日(水)
最近、小葉松さんの仕事のピッチがますます加速してきた。新事務所に入れた作業用の大テーブルの前からほとんど離れることなく、もくもくと切り貼り作業をしている。ジブリ映画のカット集から、オリジナル商品のデザインに使えそうなものをピックアップして膨大な量の制作指示書に貼り付けていく。気の遠くなるような作業だ。
商品を入れる包装紙や袋の見本もあがってきた。かなりインパクトのあるデザインで、出来上がりが今から楽しみだ。


09月21日(木)
3スタに置いてある展示物の試作品作りがまた一歩進んだ。難航した原画のチェックも終わり、さっそく安西さんと三好さんはその後の作業に。原画のコピーに色を塗り、厚紙に貼って切り抜いて…という地味な作業を黙々とやっていく。3人のキャラクターを18枚分作るのでけっこう時間はかかる。
以前同じ作業をしていたとき、たまたま来ていた宮崎監督に色を塗るのが遅いと責められたことのある三好さんは、また監督が来ないかと内心ビクビクしていたらしい。それであわてたのか、安西さんから色塗りにムラがあるのをチェックされていた。


09月22日(金)
夜7時ごろ、吾朗さんと北島さんが茨城県○○市にある工房から上機嫌で帰ってきた。
美術館の屋上に設置するロボット兵をその工房で作っており、その出来が素晴しかったからだ。高さ5mもある巨大なロボット兵がそびえたつさまは、まるで奈良の金剛力士像を思わせる迫力との事。
普段あまり興奮しない冷静な吾朗さんが「すんごーくいい」を連発している。かなり期待できそうだ。ロボット兵制作は開館直前まで続く予定だ。完成すれば、美術館の名物の一つになることだろう。


09月25日(月)
夏期休暇でイギリスに行っていた石光さんが今日から元気に出社。「イギリスどうだった?楽しかった?」と尋ねられるかと思えば、彼女の場合は「何食べた?太った?イギリスはおいしかった?」となる。これは立派なセクハラだ。しかし石光さんは「全然太らなかった。あまり食べなかったから。」とけろり。かくてムゼオはますますセクハラ用語の飛び交う職場になっていく。


09月26日(火)
今週は外出やら出張者が多いためか、スタッフはおおわらわ。
北島さんはそそくさと現場にて出かけてデザインの打ち合わせ。西方さんは契約書や月末の経理業務など、急ぎの資料作成にキーボードをものすごい勢いで叩いている。
橋田さんは来週7、8日に三鷹市駅前コミュニティセンターで開催される展覧会用の準備に励み、小葉松さんは例の切り貼り。「黙々と」いう表現がぴったりな職場だった。


09月27日(水)
小葉松さん、西方さんと橋田さんの3人は小樽出張。美術館の参考に、石原裕次郎記念館と「西部警察」、そして小樽よしもと館の3館を視察するためらしい。中でも小樽よしもと館は、運営方法がかなり参考になったそうだ。びっくりさせられたのは「西部警察」のオリジナルグッズ。ジャンバーやジャケットなど多種多様な衣類やアクセサリーなどの装身具はもちろん、渡哲也の好きなソフトクリームや名物「炊き出しカレーセット」まである。その商魂にただただ圧倒されるばかりだったとのこと。


09月28日(木)
出張者や休暇者が多く、今日武蔵境の事務所にいたのは吾朗さんと渡辺さんの2人だけ。うるさいメンバーがいないこんな時こそ、ゆったり気分で普段出来ない仕事をしようと思った吾朗さん。ところが、電話がじゃんじゃん鳴ってかえって仕事が進まなかったらしい。おまけに渡辺さんが不在の時を見計らったかのように急な売込みや来客があるという全く当てが外れた日となった。次の日「こんなんだったら、うるさくてもみんながいてくれたほうがいい」と、しおらしいこと言っていた吾朗さんでした。


09月29日(金)
橋田さんが、運営コンサルタントのドレナヴァンの田辺さん、小島さんと井の頭公園周辺をデート…ではなく、三鷹、吉祥寺、井の頭公園各駅から美術館までの歩行ルートにどんな案内看板を何箇所つけるかなどの実地検証を行った。約5時間も歩きつづけたため、会社に戻ってきた時には憔悴しきっていた橋田さん。その前に三好さん、石光さんと額縁の搬入作業をして疲れていたにしても、やはり虚弱のレッテルは消えず。ちなみにドレナヴァンの2人は5時間行脚のあともけろっとしていたらしい。自分の体力に不安を感じたのか、橋田さんは駅前のスポーツクラブのパンフを真剣に眺めていた。