西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.18 ウィリアム・モリス【弐】 壁紙とアラベスク
2012.10.02
ウィリアム・モリスの壁紙は現在も愛され続けていて、英国風のインテリアには欠かせないアイテムとなっています。モリスが設立した"Morris & Co."は創立が1861年ですので、150年以上も続く老舗カンパニーです。テキスタイルや壁紙を主力の商品としています。
モリスの壁紙の特徴といえば、植物や小動物をパターン化したデザインです。このようなパターンデザインのルーツというと、イスラム教のアラベスク模様に源を求めるのは当然でしょう。幾度も繰り返されて無限に続くパターンは、彼らの世界観を表現したものだといわれています。ただ、モリスのデザインは、もう少し大胆かつ繊細で、色使いもカラフルであることが特徴です。ただ、このことは、連載でも取り上げた版画の技法、クロマリトグラフィのような印刷技術の発展と無関係とはいえないでしょう。
また、取り上げている植物や鳥なども異国情緒とかを狙ったものではなくて、イギリスの郊外で当時ごく普通に見られたものばかりです。これは華美な装飾を廃し、身近な植物や動物に目を向けた、"ラファエル前派"や"アーツ&クラフト"の精神につながるものです。日常生活にデザインを持ち込んだモリスならではの、飽きがこなく長く愛せて、心が落ち着くような、それでいて非常に精錬されたデザインなのだと思います。
今回の"挿絵展"の会場には、4種類の壁紙が選ばれています。会場で是非見つけてください。
"Daisy, 1864, by William Morris"
"Fruit, 1864, by William Morris"
"Blackthorm, 1892, by J. H. Dearle"
"Compton, 1895, by J. H. Dearle"
"J. H. Dearle"は、ジョン・ヘンリー・ダール(1860-1932)というモリスの弟子のひとりです。18歳でモリスの工房の見習いとなり、モリス自身が1884年頃から社会主義運動に力を傾けるようになってからは、モリス工房の監督を引き継ぎ、その後50年近くモリス商会のチーフデザイナーを務めました。