西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.23 イワン・ビリービン【参】 水の表現
2012.11.06
前回の最後に波の表現について触れました。それは、全体の構図と波頭や飛び散る水しぶきを生き物のように描いた点に浮世絵の影響が見られるという点でした。ただ、もうひとつ改めて注目して欲しいのは、たった2色で海を塗り分けて表現していることなのです。この単純化、均質化がアニメーションの表現には不可欠です。
次の絵を見てください。
"King and Goat"の一部
一匹の山羊が波が打ち寄せる海を眺めている絵です。前回の"サルタン王"の絵とは表現の仕方が違うのですが、海岸に波が打ち寄せる様子を海を紺とグレー3色、白の5色で表現しています。効果線もほとんどないのに、ここまで単純化してしまうと、CGを使わずとも海の動きを動画で表現することが可能ですよね。
また、次の絵は、森の中の湖を表現していますが、澄んだ鏡のような湖面をわずか2色で表現しています。湖面に映る人影と木々のシルエットをわずかに揺らいだ線で表現するだけで、私たちの目には水だと感じられ、それもとても澄んだ水だということまでわかります。さらに底が見えなくて暗い色であることで、それが深い湖であることまで伝わってくるのです。これをアニメーションに応用すると、揺らぎの大きさで風まで感じられる表現が可能でしょう。実に巧妙な表現だと思います。
次の絵は、ビリービンがオペラ"サドコ"のために描いた夜の絵です。
"Sadko,1913"
三日月の映り込みを揺らいだ線で表現しただけで、それが大きな湖であることがわかります。ここまで単純化してしまうと、最早、島影や木々の映り込みも必要ありません。単純化の極致だといえるでしょう。アニメーションにおける表現の理想です。