西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.09 三人の挿絵画家【壱】


 アンドルーラングが編纂した童話集の挿絵を担当している画家は、全巻を通して活躍したヘンリー・ジャスティス・フォード(1860-1941)のほかに、初期の2作に参加したふたりの画家がいます。ジョージ・パーシー・ジェイコム・フッド(1857-1929)と、ランスロット・スピード(1860-1931)です。ふたりともフォードと同時期に活躍した英国の画家でした。


s120731a.jpg「G・P・ジェイコム・フッド "Cinderella", The Blue Fairy Bookより」

 G・P・ジェイコム・フッドは「The Blue Fairy Book」に、ペロー童話からの再録作品「シンデレラ」「長靴をはいたネコ」「赤ずきん」「青ひげ公」などの挿絵を手がけています。ペローとは17世紀のフランスの詩人で、各地に伝わる口頭伝承をまとめて脚色を加えながら発表していました。それらを集めたものが「ペロー童話集」で世界初の児童文学書とも云われているそうです。ジェイコム・フッドは、フォードより3歳年長でしたが、彼に比べて、キャラクターを中心に光を当てて描き、背景や周囲をあまり描き込んでいないことが特徴だと思います。ある意味では、正統派の挿絵なのですが、文章に対して主張しすぎない軽やかな画風だともいえます。ペンでさらっと処理された影やベタの処理の仕方からは、確かに上手なのですが、一枚の画に対する執念みたいなものは感じ取ることができません。

s120731b.jpg「ランスロット・スピード "Snow White and the Seven Dwarfs", The Red Fairy Bookより」

 ランスロット・スピードは第2巻の「The Red Fairy Book」に「白雪姫」「ジャックと豆の木」「本当の赤ずきんの話」などのお話の挿絵を手がけています。スピードは、フォードと同い年の画家でしたが、イラストだけでなく画家としても活躍、映画の製作も行なっていたそうです。挿絵についても、フォード以上に描き込む傾向にあり、また、キャラクターの輪郭線をアニメーションのようにシャープに描く画風だと思います。宮崎監督も展示の中で「スピードの絵はするどくJ・フォードより上手ですが、ちょっと冷たい」と語っています。さらに構図にも優れ、ある意味、挿絵の範疇を越えてしまいがちでした。一枚の制作に費やした時間についてはわからないのですが、明らかに手間がかかっている画風からはたくさんの画を量産するのは難しかったのではと想像します。

 このような経緯から、第3巻以降の挿絵はフォードに一任されたのではと思います。これは、あくまでも、筆者の"妄想"なのですが。