西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.14 どうやって印刷していたの? 【弐】
2012.09.04
さて、職人の技術に支えられていた木口木版と違い、もっと、オリジナルのペンタッチをそのまま再現して印刷できるのが写真製版の手法です。1820年頃、フランスで開発されたこの手法は、挿絵の世界でも次第に木口木版に取ってかわられます。
そのしくみは、簡単に述べると次の通りです。まず、オリジナルの線画を写真に撮って、ネガフィルムを作成します。そのネガフィルムを特殊な溶剤を塗った亜鉛などの金属板に載せ、紫外線を当てます。すると、光があたったところは溶剤が変質して硬化し、当たらなかったところはそのままとなります。この金属板を定着液に浸すと、光が当たらなかったところだけ溶剤が溶け出し膜がなくなり、光が当たったところは膜が残った状態となります。
次に、この金属板を酸の溶液に浸すと、膜がなくなってしまったところだけ侵食され、膜があるところは侵食されないので、写真が金属板の凸凹となって再現されることになります。つまり、印刷のための凸版の完成です。これを用いて活字と共に印刷するというわけです。
「亜鉛凸版(左上)、ネガフィルム(左下)、印刷物(右上下)」 (挿絵展の会場で実際にご覧になれます)
注意して欲しいのは、これはペンで描かれた線画の印刷だからこれで良いわけで、もっと複雑な写真や絵画のような中間色やカラーの画を印刷するのには、網点分解や三色分解という工程を行なわなくてはならないということです。現在、写真製版と呼ぶ場合は、もっと複雑な過程を経た印刷法になるので、当時の写真製版は、厳密には"写真版画"とでも呼ぶべきものでした。
いずれにせよ、このような写真を使った製版の導入で、挿絵の再現度は飛躍的に高まったといえるでしょう。ただ、ラングのフェアリーブック・シリーズ(童話集)では、まだまだ、両方の手法が混在しています。次回は、その比較を試みてみたいと思います。