西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.11 三人の挿絵画家【参】


 ヘンリー・ジャスティス・フォードは油絵も描いている画家でしたが、今回の展示で注目しているのは、挿絵画家としての仕事です。1889年に最初の"The Blue Fairy Book"が出版されて、その後の20年、全12冊の"Fairy Book"シリーズの挿絵のほとんどをフォードが担当しているのです。数えてはいないのですが、ひとつのお話で2~3の挿絵が描かれているとして、全部で1000から1500くらいのイラストを描いたことになるのですから、かなりの仕事量です。さらに驚くべきことに、第1巻から第12巻まで、ラングにとって39歳から50歳にわたる仕事にもかかわらず、画風の変遷がほとんどありません。これは、ひとりの作家の仕事としては驚くべきことです。ラングの仕事がプロフェッショナルな職人技だと感じられる所以かもしれません。

 また、ラングの挿絵の特徴としては、あくまでも子どもに見せることを前提にしていると思われることです。残酷なシーンを描いてもあくまでも節度を守っています。首を切られた化け物を描いても、血や骨をリアルに描いてはいません。また、水浴びをする女性が登場しても、必要以上にエロティックには描いていないのです。宮崎監督も彼の作風について、「J・フォードは適度に抑制された官能性で、あたたかく残酷なシーンも受け入れやすいものにしています。」と述べています。

 児童文学の挿絵ですから、空想上の生き物やモンスターを描く必要がありますが、どこかユーモラスな造形にはフォードのサービス精神が表われているように思います。怖いはずのモンスターも、どこか憎めないのです。

 こうした、絵画とは違うからこそ持ちえた特徴こそが、宮崎監督をして「自分たちのご先祖」と感じた所以なのではないでしょうか。そう、通俗文化のバトンの受け渡しの始まりなのです。

s120814a.jpg「ヘンリー・J・フォード"King Kojata", The Green Fairy Bookより」