西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.29 一枚の挿絵から【四】 ドラゴンの不思議
2012.12.18
「ヘンリー・J・フォード"The Nine Pea-hens and the Golden Apples", The Violet Fairy Bookより」
このお姫様をさらっているドラゴンの挿絵、とても格好良いですね。現代のソーシャルゲームのカードにあってもおかしくないほど、洗練されていると思います。ということで、今回は、ドラゴンについて、考えてみたいと思います。というのは、宮崎監督が寄せている言葉に次のように書かれているからです。
「竜や大蛇がおもいのほか小さく描かれていると思いませんか。西欧の宗教で、竜は邪悪なものと決めつけられています。ヒーローの剣や槍で殺される運命にあるので、竜をあまり強くおそろしく描けないのです。」と。
この文章を読んで「なるほど」と思ったのですが、ではなぜ西欧と東洋では扱い方が違うのだろうと思い、もう少しドラゴンについて調べてみることにしました。
そもそも、ドラゴンと竜とは同じものなのでしょうか。双方とも想像の生物で、顔がワニのように恐ろしくて空を飛べるところは共通ですが、ドラゴンがしっかりと首を上げて二本足か四本足で経っているのに比べ、竜は長い胴体を持っているので、手足はあるのですが腹をこすりながらヘビのように進む形をしているところからして違います。また、ドラゴンは火を吐く生き物とされていますが、竜は湖や川に棲むというように水と関係が深い生き物とされています。さらに、ドラゴンが邪悪な存在の象徴とされたり、財宝の番をするために飼われている存在にすぎないように矮小化されているのに対し、東洋の竜は神格化され、時には信仰の対象となり、一般に人を襲う存在ではありません。日本人が持つ竜のイメージで西洋のドラゴンを見ると、竜よりも小さく描かれていて、勇者に剣で倒される存在に過ぎないのが不思議に感じられるのも分かる気がします。やはり、ドラゴンと竜は違う生き物だと考えるのが自然なのでしょうか。
世界中に存在するドラゴンや竜のイメージは、どのようにして生まれたのでしょう。そのルーツを調べるとインドのナーガ神だという説もあれば、バビロニア神話だという説もあります。それらが、各国に広まるにつれ、その国の神話や信仰と結びついて変遷を遂げたのだといわれています。ただ、明らかに、他の文明と隔絶されていた島しょや山奥の地にも似たような生き物が伝わっていることから、太古の恐竜のイメージが人類のDNAに流れて受け継がれていて、同じような空想の生き物を想像させるのだとする説もあるみたいです。
ラングの描いたドラゴンを探していて面白いものを見つけました。
「ヘンリー・J・フォード, Prince Darling and other storiesより」
ここに登場するドラゴンは、まるで鳥のようです、ダチョウのような。あるいは、映画ジュラシックパークに登場して高度な知能を持って人を襲ったラプトルか。とても、私たちが知っている竜と同じ生き物だとは思えません。
このほかにも、まるで馬のように勇者やお姫様を運ぶドラゴンもいれば、大きな口で噛み付いて敵を倒すワニのように描かれているドラゴンも見つかりました。ヘンリー・J・フォードがドラゴンを描く場合、実際に居る生物をモデルにして、とりあえずのリアリティを求めていったのかもしれません。やはり監督が語るように、西欧のドラゴンは神様や皇帝のような畏敬の対象ではなく、勇者が倒すべき卑近な存在に過ぎないんだろうと思います。確かに一神教が主流の西欧では、神格化された存在は"神"の他に求めることができないのですから。