西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.30 一枚の挿絵から【伍】 続・ドラゴンの不思議
2012.12.25
このコラムを読んで下さっているみなさん、メリークリスマス。この連載も今年最後の更新となりました。今回は何を取り上げようかと思ったところ、前回のドラゴンのときに調べたヘンリー・J・フォードの挿絵で、まだまだ紹介したいものがあったのと、よく考えれば2012年という年は干支では"辰"年。ドラゴンでしめくくるのは悪くないということで、もう一回、この話題にお付き合いください。
ヘンリー・J・フォードの描くドラゴンは、実に様々な形態をしています。各国によってドラゴン(=竜)の捉え方が違っていることは前回お話しましたが、その世界中のお話にあわせて描くのですから、登場するドラゴンも実に様々です。ダチョウのような小さなドラゴンもいれば、馬のようなドラゴンも居ることは、前回も述べました。時には、まるで怪獣のような数十メートルもの巨体を持ったドラゴンも登場しています。そのドラゴンたちを実にたくみに描き分けているのが、フォードのすごさです。でも時には、差別化のためにただ角を増やしてみたり向きを変えたり、顔を長くしてみたり丸くしたり、同じドラゴンは描くまいというフォードの意地のようなものも見え隠れしており、その心理を読みながら挿絵をみるのも、この展示の楽しみ方かもしれません。
「ヘンリー・J・フォード"The Dragon and his Grandmother", The Yellow Fairy Bookより」
フォードが一番多く描いたスタンダードなドラゴンです。ただ、少し痩せ気味なのと、角が水牛のようですね。
「ヘンリー・J・フォード"The Marvellous Musician", The Red Fairy Bookより」
こちらは、もう少し頭が大きいドラゴンです。哺乳類のような顔をしています。少しネズミっぽいかもしれません。
「ヘンリー・J・フォード"The Dragon of the North", The Yellow Fairy Bookより」
このドラゴンは大きいです。そして、まるでワニのようです。目が爬虫類独特のフォルムをしていて、何を考えているか分からない恐ろしさが表現されています。
「ヘンリー・J・フォード The Green Fairy Book表紙より」
顔が独特の形をしていて、尻尾が長いのが特徴です。ヒゲなど生えているところは、東洋の竜にも近いフォルムだと思います。
「ヘンリー・J・フォード"The frog and the lion fairy", The Orange Fairy Bookより」
こちらは、子どものドラゴンです。色が黒くてアルマジロのような体型、少しだけズングリとしています。
このように、フォードは色々なドラゴンを描き分けていて、物語での役割に応じて、爬虫類のような恐怖の対象の場合もあれば、意志を持った生命体として描かれることもあります。監督もキャプションの中で、こう述べています。「ドラゴンにもいろいろあります。J・フォードの中では、何を描きわけのポイントにしていたのでしょうかね。」と。
最後に、ちょっとユニークなドラゴンを紹介します。
「ヘンリー・J・フォード"The Flower Queen's Daughter", The Yellow Fairy Bookより」
ついに、ドラゴンがドレスを着てダンスを始めました。まるで現代のマンガのようです。どんなお話か、実に興味がわいてくる挿絵ですね。
今回紹介した全てのドラゴンを描いたフォードは、やっぱりリクエストに応じてなんでも描いてみせる職人だったんだなと思います。