西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.32 イワン・ビリービン【伍】 イワン・ツァレヴィチの秘密


 今回は再び、ビリービンの挿絵に関連する話題をお届けしたいと思います。というのは、1月19日に一週間のみの限定公開で映画「夜のとばりの物語-醒めない夢-」(監督:ミッシェル・オスロ)という映画を、ジブリ美術館ライブラリー作品として公開するのですが、その中に、ビリービンの挿絵が何枚も登場するのです。
 「夜のとばりの物語」というのは、世界中の物語を基にして、主人公の少年少女が自由に解釈したエピソードを、自らが演じるという設定のミシェル・オスロ監督の影絵の手法を使ったアニメーションです。このコラムをお読みの方には、説明するまでもないと思うのですが...(もしわからなかったら、このページの右バナーのアイコンをクリック!)。昨年6月に公開された「夜のとばりの物語」に続き、別の5つのエピソードを映画にしたのが続編ともいえる映画「夜のとばりの物語-醒めない夢-」(*)なのです。ビリービンが登場するのは、その中の第5話「イワン王子と七変化の姫」というエピソードです。

 そもそも"イワン"というのは、ロシアの物語にはよく登場する名前です。"イワンの馬鹿"というお話はきっと耳にしたことがあると思いますし、"イワン皇帝"や"イワン雷帝"などの実際のロシアの皇帝も有名です。実は、"イワン"という名前は、英語では"ジョン"、フランス語では"ジャン"、ドイツ語では"ヨハン"と発音される、とてもポピュラーな名前なのです。日本でいうところの"太郎"という名前に相当するのかもしれません。そういえば、ビリービンのファーストネームも"イワン"というのでした。ところでロシア語では、"王子"のことを"ツァレヴィチ"と表現するので、「イワン王子と七変化の姫」は原題では"Ivan Tsarevitch et la Princesse changeante"となっています。"イワン・ツァレヴィチ"というのは名前ではなく、"イワン王子"という意味なのですね。

s130108a.jpg「Ivan Bilibin"不死身のコシチェイの死"」
 この挿絵は企画展の会場にも展示されていますが、アレクサンドル・アファナーシェフの編纂した『ロシア民話集』からの一枚です。イワン王子が"不死身のコシチェイ"と呼ばれる老人と対決する物語で、実は、ラングの童話集のにも"不死身のコシチェイの死"というタイトルで収録されています。こちらでは、ランスロット・スピードが挿絵を3点、提供しています。

s130108b.jpg「ランスロット・スピード"The Death of Koschei the Deathless", The Red Fairy Bookより」
 今回、オスロ監督が映画に取り上げているのは、同じ『ロシア民話集』に収録されているイワン王子が登場する物語なのですが、「イワン王子と火の鳥と灰色おおかみの話」という別の昔話です。この昔話をもとにして、どうアレンジされているかは見てのお楽しみです。オスロ監督ならではの、ウィットが効いた、ちょっぴり現代的でカラッとしたファンタジーに仕上がっていると思います。ビリービンの挿絵もそのまま登場していますので、是非、劇場でごらんいただければと思います。

 最後になりますが、このふたつのお話はストラヴィンスキーの音楽で有名なバレエ「火の鳥」の原作となったお話です。イワン王子と不死身のコシチェイ(カスチェイ)と火の鳥の活躍。音楽やバレエに興味がある方も、このお話を読んでみることをオススメします。

(*)映画「夜のとばりの物語-醒めない夢-」は1月19日から一週間、新宿バルト9で限定公開されます。詳しい情報は、公式サイトでご覧下さい。