西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.26 一枚の挿絵から【弐】 マンガ的なキャラクター
2012.11.27
「挿絵展」の会場に展示されたたくさんのヘンリー・J・フォードの絵の中から、今週も気になったものを紹介したいと思います。
「ヘンリー・J・フォード"The Crow", The Yellow Fairy Bookより」
この絵は、"カラス"というお話のひとコマです。キャプションにも「妖怪が怖いような、怖くないような。」と書かれています。フォードはたくさんのモンスターや妖怪などを描いているのですが、そのいずれもが、どこか憎めないユーモラスな一面を持っています。さらに、たくさんの妖怪の表情を描き分けているので、デフォルメした表情が必要だったのかもしれません。怪物たちを、リアルに恐ろしく描くことは子どもを怖がらせるだけで、童話集としてはふさわしくないと考えたのでしょうか。それとも、フォード自身がとてもユーモアを持った人物だったからでしょうか。いずれにせよ、会場に展示された様々な怪物たちは、どこかマンガ的な表現で持って描かれているように思います。
「ヘンリー・J・フォード"The Bunyip", The Brown Fairy Bookより」
これは、フォードが描いた別の怪物です。"魔物バニヤップ"というタイトルのお話です。これだけ大きな怪物なのに目がまん丸でどこか愛嬌のある顔立ちをしていますね。ずいぶんと人の良さそうな魔物です。ただ、怪物は大きな目を見開いて、何を考えているかわからないのに人を襲ってくるところにも、怖さがあるようです。幼い頃見た、ウルトラシリーズに登場した円谷プロの怪獣たちが、個別では愛嬌がある顔をしているのに、ドラマの中ではとても怖かったのも同じことです。ちょっと話は脱線してしまいましたが。
「ヘンリー・J・フォード"The Grateful Prince", The Violet Fairy Bookより」
今回、みなさんに一番紹介したかった挿絵がこの絵です。このキャラクターたち、まさにそのままマンガです。実に生き生きとした表情と動きが描かれています。そのままディズニーのアニメーションに登場してもおかしくないほど、デフオルメされたマンガ的なキャラクターになっていませんか。フォードの挿絵が、通俗文化のご先祖様として現代のアニメーションに通じるといわれるのは、このようなマンガ的な表現の発芽が見られることにもあるのではないでしょうか。