西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.44 忘れられない挿絵たち【壱】 こわい絵
2013.04.03
今回から、今回の企画展で取り上げられたラング童話集の挿絵たちの中から、特に印象深かったものを中心に紹介してみたいと思います。第一回は、"こわい絵"をテーマに選んでみました。
「画:ヘンリー・J・フォード"How Geirald the Coward was Punished", The Brown Fairy Bookより」
切り取られた巨人の頭が実にリアルに描かれています。切り口が見えたり、血が滴ったりはしていないのですが、今にも目を開けそうな巨大な顔が怖いのです。アイスランドのお話だそうですが、王様のとなりに控えている爬虫類っぽい生き物は何なのでしょう。トカゲなのか、鳥なのか。王様の向こう側には犬かおおかみのような獣の姿も見えますね。宮崎監督は腰から下げられている剣のとめ方や道具がおもしろいと注目していますが、妙に細い剣も気になります。この剣で首を切ったのでしょうか。剣の方が折れてしまいそうです。また、身に着けているよろいの模様、まるで高齢運転者が車につけていた"もみじマーク"みたいです。
「画:ヘンリー・J・フォード"The Master Thief", The Red Fairy Bookより」
この絵の怖さは、首吊りの様子をリアルに描いたショッキングさにあります。首の曲がり方とか、腕の下がり方がリアルなのです。なんとなく、ブランブラン揺れている光景を想像してしまって、怖さが増します。本当は、首吊りのふりをしているだけで、死んではいないらしいのですが、本当に怖いです。森の中でこの光景に出くわしたら、このおばさんではなくとも大声を上げてしまいそうです。
「画:ヘンリー・J・フォード"How Ian Direach Got the Blue Falcon", The Orange Fairy Bookより」
実は、個人的にはこの絵がもっとも怖かった絵です。どういういきさつかわからないのですが、人間の体が魔法で小枝の束に変えられてしまい、窓から捨てられている場面のようです。直前まで人間だったこの人物の無念さは幾ばくのものでしょう。想像しただけで、身震いがします。後ろで、声を上げているおじさんもさぞや驚いたことか。3匹の野犬は、降ってきたのが食べられない小枝で、さぞやがっかりしているのではないでしょうか。遠くにカモメのような鳥たちが不吉に飛んでいるのも気になります。スペインのお話なんですが、内容がものすごく気になります。
今回は、「こわい絵」をテーマに、純粋に三枚の絵を取り上げて鑑賞してみました。それぞれの絵に対して色々な突っ込みを入れてみましたが、"難しいことを考えずにあれこれ突っ込んでみること"、これが今回の展示の本当の楽しみ方なのかもしれません。
さて、今回の企画展示はこのような絵がまだまだ200点近くも展示されています。残りの会期も一ヶ月半となりましたが、みなさんも、是非会場にいらして、一枚一枚の挿絵を見ながら、色々と突っ込みを入れてみてはいかがですか?