西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.45 忘れられない挿絵たち【弐】 知ってるお話の絵
2013.04.09
今回は、誰もが知っている有名なお話の挿絵を見ていきましょう。まずは、こちらから。
「画:ヘンリー・J・フォード"The Three Little Pigs", The Green Fairy Bookより」
これは、『三匹の子豚』のお話ですね。日本では、1933年に作られたディズニーのアニメーションが有名で、「狼なんかこわくない」の歌を覚えている方も多いのではないかと思います。とてもかわいらしいキャラクターのイメージが強いお話ですが、フォードの挿絵では妙にリアルに描かれています。そのリアルな動物が人間と同じポーズを取っているので、なんだか奇妙に感じられる絵となっています。なおラングのお話では、襲ってくるのがオオカミではなくキツネとなっています。
「画:ヘンリー・J・フォード"The Story of the Three Bears", The Green Fairy Bookより」
こちらは、ロシアの口承説話として有名な「3匹のクマ」のお話です。福音館から出版されているトルストイ版ではバスネツォフが挿絵を提供していて大変有名なお話です。ジブリ美術館でも、2007年に企画展示としてこのお話を取り上げました。バスネツォフ版ではお父さん、お母さん、子ぐまの順番で描かれるのに対し、フォード版ではその順番が反対です。ロシアとイギリスの違いでしょうか。子どもの育児方針まで読み取れるような気がします。
「画:ヘンリー・J・フォード"Beauty and the beast", The Blue Fairy Bookより」
この挿絵は会場では展示されていません。ただ、あまりに印象的だったので取り上げました。「美女と野獣」の挿絵です。美女というよりは少女みたいだし、野獣が象の化け物みたいです。インドの神様のガネーシャにも見えます。インドをイギリスが統治していた時代のお話なので、インドの神話もフォードの知識としてあったのかもしれません。野獣というものを絵で表す時にガネーシャを思い浮かべたのでしょうか。フォードにとってインパクトが強かったのかもしれません。
今回、改めて展示されている挿絵を確認していて気付いたことがありました。それは「親指姫」の挿絵が三点も飾られていたことです。それなのに、今回の企画展用に作られたパンフレットには一枚も収録されていないのです。
「画:ヘンリー・J・フォード"Thumbelina", The Yellow Fairy Bookより」
「画:ヘンリー・J・フォード"Thumbelina", The Yellow Fairy Bookより」
いかがでしょうか。親指姫が実に可憐に描かれている挿絵たちだとは思いませんか。実は、宮崎監督もこの挿絵に「僕らが知っている親指姫はもっと幼い少女でした。こんなお姫さまならモグラが求愛するのもわかります。」とコメントをしています。確かにこんな色っぽいお姫様だと、恋してしまうかもしれないと思いました。たくさんの美女が描かれている今回の挿絵展ですが、隠れたナンバーワン美女は、この「親指姫」なのではないかと、個人的には思いました。こんな可憐な美女、パンフなどに載せてはもったいない。僕が監督だったら、そう考えたと思います。あくまで、推測の域を出ないのですが...。