西岡事務局長の週刊「挿絵展」 vol.49 高畑監督、来場する。
2013.05.08
3月のとある日の夕方、高畑監督がイベントの見学を兼ねて、「挿絵展」をご覧にいらっしゃいました。もちろん「かぐや姫の物語」の制作中で多忙な身、美術館にはわずか数時間の滞在でしたが。
「かぐや姫の物語」は今秋公開予定です
会場の展示を見ての最初の感想は、「引き伸ばしても鑑賞に堪えられるものですね。拡大したほうがやっぱり迫力がある」ということでした。原画は、縦横10センチにも満たない小さな版画なのですが、拡大しても少しも破綻しないフォードの画力と、木口木版の精密さは感嘆に値すると思います。
「画:ヘンリー・J・フォード"the little gray man", The Grey Fairy Bookより」
高畑監督が思わず「面白い」と声を上げた絵です。宮崎監督も「見たこともない変ないきものを描く力がすごいですね」とコメントしていますが、この三つの顔を持つ灰色の男の髪の毛というか髭というか、毛むくじゃらさ加減で三つの顔がつながっているのは本当にすごい想像力です。会場の中でも特に印象的な一枚だと思います。(灰色を意味する英語"GRAY"は、英国では"GREY"と綴ります。ラングの童話集のタイトルでは"GREY"が使われているのですが、なぜかフォードの挿絵には米国風に"GRAY"と綴られていました)
そのほかに、今回の会場には王女様や美女を描いた挿絵も多いのですが、高畑監督は、ラファエル前派風の女性の顔はあまり好きじゃないそうです。ツンとすましていて冷たい感じがするのだそうです。
「画:ヘンリー・J・フォード"What the Rose did to the Cypress", The Brown Fairy Bookより」
このライオンの絵に対しては、「写真をみながら描いたんでしょう」と看破していました。確かに、写真のように正確な描写ですし、獲物を捧げられているのに無関心で、遠くを見ている様子は、画力に秀でたフォードにしては違和感が感じられる絵ですから。
そういえば、フォードの挿絵には、ライオンを描いたものがとても多いことに気付かされます。確かに、世界の童話には"百獣の王"としてドラゴン並みにライオンが登場する話が多いのです。次のライオンの絵を見てください。
「画:ヘンリー・J・フォード"The Girl who pretended to be a Boy", The Violet Fairy Bookより」
前のライオンに比べて、こちらの方が表情も迫力もありますよね。会場にはそのほかにもライオンの絵があるので、比べてみるのも面白いです。
さて、高畑監督の話題に戻ります。監督の話によると、イワン・ビリービンの版画は、宮崎監督が紹介してくれたものなのだそうです。宮崎監督の親戚がロシアから引き上げてきた時、日本に持ち帰った書籍の中にビリービンの本があり、それをハイジを制作する頃に自宅から持ってきて、参考資料としてメイン・スタッフに紹介してくれたのだとか。まだ日本にビリービンが紹介されていなかった頃だと思います。また、"ぼくの妄想史"のコーナーでは、山本芳翠の「浦島図」が展示してあるのを見て、「宮さんは、なぜか昔からこの絵が好きなんだよね」と教えて頂きました。そういえば、自身のことを「『浦島図』の後輩だと思ったりします」と宮崎監督のコメントもスペシャルなものが掲示されているのでした。
企画展示「挿絵が僕らにくれたもの展」も、いよいよ20日(月)までです。一年にわたって続けてきたこの連載企画ですが、いよいよ次回が最終回。来週は、嬉しい発表もありますので、お楽しみに。