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今だから感じる、登場人物たちの配置の完璧さ
「ルパン三世」というアニメは、けっきょく何なのだろう。
そもそもルパン三世というへんてこな人物は何者なのだろう。
ルパン三世を定義するのはムツカシイ。アルセーヌ・ルパンの孫であり、ワルサーP38を愛用し、狙った獲物は必ず盗む神出鬼没の大泥棒。たしかにそういう説明なのだが、それだけでは腑に落ちない。
それよりもこう言ったほうがピンとくる。
ルパン三世というのは、殺風景な部屋のソファに寝っ転がって、次元大介といっしょにグダグダしている人物である。石川五ェ門という堅物をからかうエエカゲンな人物である。いつも峰不二子という女性に騙されている人物である。そして、いつも銭形警部に追われている人物である。
そういう人たちの中心にいるのがルパンという人物で、だからこそルパンなのである。ルパン三世が一人でぷらぷらしていてもダメなのだ。逆に言えば、次元、五ェ門、峰不二子、銭形警部が登場してくれるから、ルパン三世が登場してくれる。だからこそ、「ルパン三世」になる。
あらためて考えてみると、この登場人物たちの配置は完璧で、すごく楽しいし、想像が広がる。物語を作ってみたくなる。そういうものはいいものだと私は信じる。
次元大介とルパンの間合いの取り方─「友よ!」と馴れ合いすぎたりせず、エエカゲンな雰囲気も残しながら、それでも同じ目的のために協力する─は、目的が「泥棒」という悪事であるとしても、やはり男同士の関係として素晴らしい。そして、彼らから少し距離を取ったところに五ェ門という変わり者がいて、ルパンと次元、次元と五ェ門、五ェ門とルパン、と、それぞれ距離の違う関係が交錯しているのがいい。しかし凸凹三人組が一致団結して目的を達成するというだけでは物足りない。だから峰不二子がちょっかいを出してくるのがスパイスになる。そんな彼らを「ルパン一味」としてまとめ上げ、問答無用で一つの方角へ走らせるのは、後ろから追いかけてくる銭形警部である。
ゆるやかにつながった友人たちがいて、自分を弄んでくれる女性がいて、いやでも何でも自分の役割を思い出させてくれるライバルがある。つまり、これは一つの理想形だ。
「泥棒になりたい」と思うわけではないが、「こういうのはいいな」と思う。
作品を見る目は時間がたつうちに変わってくる。子どもの頃の私は「ルパン三世」をそういう風には見ていなかったろう。しかし今の私にとって、「ルパン三世」という作品はそういうものなのである。
(作家 もりみ・とみひこ)
森見登美彦(もりみ・とみひこ)一九七九年、奈良県生まれ。京都大学農学部卒業、同大学院修士課程修了。在学中の二〇〇三年に『太陽の塔』(新潮文庫)で第十五回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)では第二十回山本周五郎賞を受賞。その他の著書に『四畳半神話大系』(角川文庫)、『きつねのはなし』(新潮社)、『新釈 走れメロス 他四篇』(祥伝社)、『有頂天家族』(幻冬舎)、『美女と竹林』(光文社)などがある。