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舞台とツルゲーネフ

物語の舞台とツルゲーネフ

19世紀末のロシア

background_turgenev_04.jpg 19世紀末のロシアを舞台にした「春のめざめ」の中には、貴族社会が残る革命直前の風景が描き出されている。傾きつつありながらも伝統ある貴族の暮らしや、情緒豊かな庶民の生活風景が細かく描かれていることもこの作品の大きな魅力の一つ。ロシアンティーを囲む食卓の風景、手回しオルガン、「カフカスの鷹匠」の伝説など、当時のロシアの文化の一面を垣間見ることができる。

background_turgenev_05.jpg 歴史的にみると、19世紀のロシアはロマノフ朝による帝政時代。西欧からの影響を受け近代化の道を歩み始めたのだが、地主貴族による農奴制の問題などをめぐって、保守勢力と改革派の抗争が続いた。1861年、農奴制は廃止されたが、封建的な社会体制はなおも続き、民衆の不満は募っていった。そうして1917年ロシア革命が勃発し、社会主義国家ソヴィエト連邦が誕生することになる。

 ペトロフ監督自身、「この作品は自分の祖国が舞台ですから、私の環境、私の生活、私の人生、こうしたものをすべて含めて描いていき、それが「春のめざめ」の始まりとなるのです」と語っている。


手回しオルガン - シャルマンカ -

background_turgenev_01.jpgロシア民謡を奏でる素朴な音色が印象的なシャルマンカ。盲目の少女が歌い、小鳥がおみくじを引くシーンに登場するが、その語源は“いかさま師”。後で登場する“覗きからくり”も、実はシャルマンカから発展したものだという。


カフカスの鷹匠

background_turgenev_02.jpgアントンがパーシャと結婚する未来を想像したとき、自らをなぞらえていたのが“カフカスの鷹匠”。
古くから栄えたカフカス(コーカサス)地方の伝統的な鷹匠は、非常に英雄的な存在として捉えられていた。


ロシアンティー

background_turgenev_03.jpg度々登場するティータイムのシーン。食卓の真ん中に置かれている大きな入れ物はロシア独特の湯沸かし器“サモワール”。煮出した紅茶にお湯を足して好みの濃さで飲むのが伝統的なロシアンティーの飲み方。

アントンの恋の教科書はツルゲーネフの『初恋』

background_turgenev_06.jpg 「春のめざめ」はシメリョフの『愛の物語』を原作にしているが、主人公アントンがツルゲーネフの『初恋』を読んだことから物語が展開していくことからも分かるように、ペトロフ監督自身も、この小説から強いインスピレーションを得ている。

 映画の中で幾度となく登場する小説『初恋』のシーン。アントンが女性や恋について妄想を膨らませる時、そのイメージは必ず『初恋』の女主人公ジナイーダと重なっている。この『初恋』は、当時ロシアで大ベストセラーとなり、夢中になった少年たちに大きな影響を与えたという。

 もともとは『初恋』を原作に映画を作ろうとしていたというペトロフ監督。この映画を同郷の文豪ツルゲーネフに捧げている。

イワン・ツルゲーネフ [1818-1883]

19世紀に活躍したロシアの小説家。貴族の子として生まれながら、『猟人日記』(52)で、農奴の暮らしを描くなどし、農奴制廃止に貢献した。また、西欧の作家・芸術家・批評家等との親交を深め、『貴族の巣』(59)『その前夜』(60)など、政治社会的な作品を数多く発表すると共に、ロシアと西欧の架け橋としての役割を果たした。一方、恋愛についても数多く取り上げており、中でも代表作の『初恋』はツルゲーネフの自伝的な作品と言われ、日本でも多くの愛読者を得ている。

『初恋』あらすじ

16才の少年ウラジミールは、モスクワ郊外の別荘地で公爵令嬢ジナイーダと出会う。すぐさま恋に落ち、彼女の虜となるウラジミール。そんな彼を相手にはしてくれるものの、どこか弄ぶような態度のジナイーダ。次第に彼は、彼女の真の恋の相手が誰なのかが気になり出す。そして、ついには彼女が自分の父親の愛人だったことを知る。奔放でわがままなジナイーダが、父親の前では従順で隷属的な女性であることを目撃した彼は、恋がいかなるものかを知るのだった。