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2006年3月26日1980年、監督ポール・グリモーが語る「王と鳥」
ポール・グリモー(左)と「王」の作画を担当したアンリ・ラカム(右) in 1948
シネマ・フランセ誌第32号掲載のベルナール・マリエ(Bernard Marié)氏によるインタビュー、ラ・ルビュ・デュ・シネマ誌1980年3月号掲載のロベール・グルリエ(Robert Grelier)氏によるインタビュー及び、1980年当時の「王と鳥」担当記者モニック・アスゥリンヌ(Monique Assouline)氏らによるインタビューより抜粋。
Q.「王と鳥」プロジェクトはいつ頃誕生したのですか?
1946年、ジャック・プレヴェールと私に、この作品のアイデアが生まれました。最終的に2、3の物語で迷いましたが、アンデルセン童話「羊飼い娘と煙突掃除人」を選びました。ただ実際は、この物語も土台としての役割に留まっていて、完成したものは極めて今日的な要素を盛り込んだものとなっています。元の物語から残っているのは、羊飼い娘と煙突掃除人の登場人物だけと言ってもよいですね。
Q.ジャック・プレヴェールとはどのようにお仕事されていたのですか?
シナリオを完成させるのに約1年かかりました。毎日仕事をするというのではなく、数週間まとめて働き、その合間の時間は“思索期間”と呼んでいました。最初はお互いのアイデアを交換しつつ、人物、セットなどを考え、色々なことを話し合いました。ストーリーに形が見えてきた段階で、ジャックは完成台本の執筆に取り掛かり、自ら台本を読んで聞かせます。それを基に全体をシーン毎に再度見渡し、修正を加えつつ、最終的な台詞を決定しました。まさか25年たってからも、この台本に改良を加えることになるとは、当時想像もしませんでしたよ。
Q.1953年にフランスで公開された「羊飼い娘と煙突掃除人」(邦題「やぶにらみの暴君」)は、あなたが当初企画していた内容とは異なるものでした。13年後、この映画の権利とネガフィルムを取り戻し、希望どおりの作品として生まれ変わらせる機会を手に入れましたね。「王と鳥」を鑑賞しましたが、前作のシークエンスが殆ど確認できないほど変わっています。前作と変わらない部分は何分くらいですか?
1950年に私は「羊飼い娘と煙突掃除人」の制作から外されました。私が反対した前作は62分で、そこから、ジャックと私の考えていたものとは異なる部分を20分カットしました。現在、最終版「王と鳥」は87分です。つまり、断片的にですが、前作の約半分を作り直したことになります。大変細かい作業でした。技術的にも、様々な問題に立ち向かわなければなりませんでした。
Q.ネガフィルムを取り戻した1967年から、映画を完成させた1979年まで、12年間という歳月が流れています。ご苦労された点は何ですか?
1967年、この映画を本来あるべき形に戻したいと言い出すと、みな反対しました。完全にあきらめるか、短編として再生させるか、2つに1つだと言われました。しかし、短編にするという解決方法は全く考えていませんでした。当初制作するはずであったものを完成させることだけに関心があったのです。「羊飼い娘と煙突掃除人」という題名で観客が鑑賞した映画は、私にとってはニセモノ、もしくは別の映画ですから。この考え方を理解してもらうのに大変苦労しました。
Q.この長い待ち時間は、映画のストーリーに何か変更をもたらしましたか?
変更と言うより、改良ですね。基本的には当初のシナリオに忠実に、場面によってはそれを膨らませることで内容を発展させ、新たに壮観で美しいシークエンスを複数導入しました。前作との混同を避けるために、題名も別のものにしました。主人公が羊飼い娘と煙突掃除人ではなく、見るからに王と鳥であったため、自然とこれを作品のタイトルに選ぶことにしたのです。
Q.登場人物はどのように構想されましたか?
私が求めたのは、リアリズムではなく、むしろ人物のリアリティでした。彼らに“存在”してほしかったのです。登場人物たちは、姿かたちや行動において、それぞれ丁寧に作り上げられました。自分達の記憶や観察、比較などをもとに構想したのです。私の映画に登場するすべてのキャラクターには、表現すべき感情が宿っていて、それまでの限定されたカートゥーンの枠に決してとどまることができません。日常の身の回りの人々と同じように、登場人物が“存在”し始めた瞬間、アニメーターはこの人物の内側に入り込み、初めて“生かす”ことができるのです。
Q.音楽や音響はどのように?
ポーランド人の作曲家を選びました。彼の作品を初めて聴いた時から、彼の持つ精神、優しさ、力強さやユーモアにすっかり魅了されたのです。フランス語がとても上手で、シナリオのニュアンスを彼はすぐに飲み込みました。彼との共同作業は、この映画にとって大変貴重なものをもたらしました。ヴォイチェフは、映画の理解を深めるために何度もスタジオを訪れ、ポーランドに帰って全てを録り終え、そして録音テープを手にパリに舞い戻ってきたのです。私たちはその場で音楽と絵をあわせてみました。一箇所も手を加える必要がありませんでした。全て完璧に同期していて、スタッフ全員が、この映画を新たな観点から見ることができたのです。
Q.最後に…
私にとって「王と鳥」は30年続いた格闘であり、それ以上のものでもあります。それは、人のキャリアに匹敵する時間ですが、私にとっては、友人や自分の考えへの忠実さの証なのです。