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2006年3月26日映画「王と鳥」 作品紹介
物語の舞台は、目もくらむばかりにそびえ立つタキカルディ王国の高層宮殿。最上階の秘密の部屋には、3枚の絵が飾られていた。美しい羊飼い娘と、煙突掃除の青年、そして、孤独な王の肖像画。娘と青年は恋をしていた。その仲を引き裂こうとする王。ふたりは絵の中から、逃げ出した。一羽の鳥が道先案内人になり、めまぐるしく続く階段を、どこまでも駆け降りてゆく……。
しだいに明らかになる、宮殿の正体。為政者も、マスコミも、そして民衆も、みんな一緒くたになって天高くそびえる高層宮殿は、世界の支配構造(システム)そのものだった!
大戦直後の1947年に制作を開始し、70年代に時代の新たな悲劇を描き込み、フランスアニメーション界最大の巨匠ポール・グリモーとフランスで最も愛される詩人ジャック・プレヴェールが遺した一篇の映画。それは、現代に生きる私たちが暮らすこの世界、この社会を、実にリアルに正面から見据えたものだった。一部の権益のために延々と続く戦争、無くなることのない独裁的な政治、世界中に抑圧と貧困を生みだし弱者を見捨てようとするグローバリズム、そして巧妙に二極化される格差社会に至るまで、世界がさらなる“タキカルディ王国化”を推し進める現代、映画『王と鳥』は、ますますその生命力を強めている。
2006年、『ゲド戦記』のスタジオジブリがこの夏に贈るもう一つの映画は、高畑勲、宮崎駿、そしてジブリの “原点”とも言うべき映画『王と鳥』(デジタルリマスター版)。高畑勲は、ディズニーとは全く異なるその表現と、時代を鋭く捉えた隠喩の数々に驚嘆し、「少なくとも、もしそれを見ていなければ、アニメーション映画の道に進むことはなかった」と語る。宮崎駿は、最も影響を受けた作品を聞かれ、「ポール・グリモーの『王と鳥』をあげないわけにはいかない」と答え、その着想を自身の作品に描き継いできた。グリモーとプレヴェールが作り上げ、若き日の高畑、宮崎の運命を変えた本作を、ジブリはこの夏、高畑勲の新たな日本語字幕翻訳とともに、堂々劇場“初”公開する。
長編アニメーション映画史上、類を見ない名作とうたわれる『王と鳥』は、フランスで最も権威のある映画賞と言われるルイ・デリュック賞を、アニメーション作品として初めて受賞。本作は、作者ふたりが未承認のまま公表されてしまったフランス初の長編アニメーション映画『やぶにらみの暴君』(52)の“作者完成版”としても知られている。ヴェネチア映画祭では審査員特別大賞を受賞し、世界中の多くのアニメーション作家に影響を与えた『やぶにらみの暴君』は、日本においても1955年に公開され、以後カルトムービー化。映画関係者だけでなく、詩人や作家、知識人たちをも夢中にさせた。『王と鳥』は、監督グリモーが後に作品の権利とフィルムを取り戻し、『やぶにらみの暴君』の意に沿わない公表から27年後の1979年、構想から実に34年の歳月をかけて完成させた執念の一大巨編だ。
監督ポール・グリモーは、『避雷針泥棒』(44)、『小さな兵士』(47)など、時代を風刺した数々の短編アニメーションを作り、唯一の長編アニメーション映画となる『王と鳥』によって、世界で最も偉大なアニメーション映画監督の一人としての評価を確立した。脚本は、『悪魔が夜来る』(42)、『天井桟敷の人々』(45)などを手がけ、フランス映画黄金時代を代表する脚本家ジャック・プレヴェール。『バルバラ』、『枯葉』など、愛と民衆の心を歌う詩人として世界で愛され続けている。音楽は『コルチャック先生』(90)、『ドラキュラ』(92)や『戦場のピアニスト』(02)など、アンジェイ・ワイダやフランシス・フォード・コッポラ、ロマン・ポランスキーの映画音楽も手がけた音楽家ヴォイチェフ・キラール。挿入歌の作曲は、プレヴェールと名曲『枯葉』を作ったジョゼフ・コスマが手がけた。
ポール・グリモー監督の日本劇場未公開短編アニメーション作品が「王と鳥」と一緒に特別上映されることが決定しました!「王と鳥」と同時上映されるのは、日本劇場未公開となるポール・グリモー監督の代表的な短編作品である「小さな兵士」、「避雷針泥棒」、「かかし」です。ポール・グリモーのご夫人と、ジャック・プレヴェールのご遺族の協力により、貴重なフィルムプリントでの上映が実現しました!《短編作品の紹介ページへ》