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二十世紀最大の民衆詩人、ジャック・プレヴェール。その詩に節付けした歌は軽く百曲を超え、1930年代から現在まで、さまざまな歌手によって歌われてきました。そして驚くべきことに、生誕百年を過ぎてもなお新曲が生まれています。プレヴェールは愛の詩人といわれ、数々の名詩がありますが、それもそのはず、「五月の歌」では、「生はさくらんぼ、死はたね、愛はさくらの木」と歌い、愛こそが人生を実らせるのだ、と言い切りました。また、「そして祭りはつづく」「校門を出たら」などの楽しい物語歌は、平凡な日常に突然自由の幻想を吹き込み、この世を元気よく生きていくための呪文となってわたしたちの心を軽くしてくれます。
プレヴェールは、1900年、パリ近郊に生まれ、1977年、ブルターニュ半島の小村に没しました。二十代の後半からシュール・リアリストの仲間となり、詩作をはじめますが、活動の中心は映画と演劇で、第二次大戦後に詩集を出すまで、もっぱら脚本家として生計を立てていました。プレヴェールは、1930年代から40年代にかけて、フランス映画史上「詩的リアリズム」とよばれる名作群を生みだした最も重要な脚本家のひとりでした。とくに、ドイツ占領下でマルセル・カルネ監督と『悪魔が夜来る』『天井桟敷の人々』などをつくり、精神の自由を謳いあげたことは、いまなおフランス人の誇りとなっています。日本でも、この二本をふくめ、カルネの『霧の波止場』『夜の門』や、『高原の情熱』『火の接吻』『ノートルダム・ド・パリ』、そしてアニメーションの『やぶにらみの暴君』(後年『王と鳥』に改作)などは忘れがたい印象を残し、いまも名画の古典としてテレビ放映やビデオ化がなされています。
脚本家として生活しながらプレヴェールは多くの詩を書き、雑誌に発表したり作曲家に渡したりしていましたが、戦後の1946年、はじめての個人詩集『ことばたち』が出版されるや、たちまちベストセラーとなり、以降、プレヴェールは主に詩人として活動します。『ことばたち』は、1992年までに詩集としてはきわめて異例の300万部を記録し、同年、「プレヤード叢書」として個人全集第一巻が出たとたん、10万部が売れて大きな話題となり、フランスでの人気が没後も衰えていないことを示しました。かれの詩のいくつかは、フランス国内だけでなく、全世界の人々に愛誦されています。フランス語を学びはじめた人は、平易な言葉で書かれたプレヴェールの詩をかならず習います。
プレヴェールは生涯を通じて、あらゆる抑圧や戦争や破壊に反対し、常にその犠牲になる子供や女性、貧しい人々、動物や木々の味方でありつづけました。その愛は女性の自由を最大限に尊重するものであり、その反抗は裸の子どもの心で武装されていました。そしてそれを、「バルバラ」のように日常の喜怒哀楽のかたちで歌ったのです。
プレヴェールの詩は、はじめから歌詞のつもりで書いたものもありますが、そのほとんどが節付けを期待しないで書かれた自由詩です。ジョゼフ・コスマをはじめとする作曲家がそれらを歌曲のように節付けしたのでした。コスマ(1905‐1969)はユダヤ系のハンガリー人で、ドイツで劇作家ブレヒトやその作曲家アイスラーたちと出会ったのもつかの間、ナチスから逃れて1933年、パリにやってきました。そして翌年、プレヴェールは自分が脚本を書いた『ランジュ氏の犯罪』の監督ジャン・ルノワールにコスマを紹介し、劇中歌を一曲つくりました。それが二人の共同の初仕事でした。そして戦時中、プレヴェールは、コスマと映画美術家のトローネルをナチスや官憲から匿い、ひそかに仕事を与えました。コスマは映画音楽の作曲家として大きな足跡を残しましたが、プレヴェールやカルネとの仕事のほかに、『大いなる幻影』をはじめ、多数のルノワール作品の音楽を担当しています。日本で最もよく知られているのは、ジャン・ギャバンとフランソワーズ・アルヌールが共演したアンリ・ヴェルヌイユ監督の『ヘッドライト』のテーマかもしれません。
このCDはプレヴェールの詩による歌の魅力を一枚に凝縮しようとして編んだものです。歌うのはピアフやモンタンから若い世代のリオまでの、フランスを代表する歌手たち。メロディーが美しく、歌手の表現力が素晴らしいものをまず選び出し、そのなかからさらにしぼりました。歌詞が面白くても、あまり朗誦風なものは採りませんでした。さまざまな理由から収録できなかった重要な歌手もいます。また、新曲には、動物や木々などを尊重し、森羅万象に敬意を表したプレヴェールの先見性をよく示すものが多く、そういう歌を収めることができなかったことは大変心残りです。しかしここに収められた26曲だけでも、プレヴェールの歌の魅力は充分に感じとって頂けると確信しています。
[収録楽曲]
- 枯葉(イヴ・モンタン)
- 愛し合う子どもたち(ジュリエット・グレコ)
- 魔性 驚異(ミシェル・アルノー)
- 子どものための歌,冬(フレール・ジャック)
- 校門を出たら(イヴ・モンタン)
- 書取り(フレール・ジャック)
- 二匹の蝸牛葬式に出かける(リス・ゴーティ)
- そして祭りはつづく(セルジュ・レジャーニ)
- 割れた鏡(イヴ・モンタン)
- ウタ(イヴ・モンタン)
- 五月の歌(ファビアン・ロリス)
- 昼も夜も(フランソワ・ル・ルー)
- 雪掻き人夫のクリスマス(カトリーヌ・ソーヴァージュ)
- ブロードウエイの靴磨き(イヴ・モンタン)
- ノックしてる(カトリーヌ・ソーヴァージュ)
- あんたがねてるとき(エディット・ピアフ)
- ひまわり(イヴ・モンタン)
- 私は私 このまんまなの(ジュリエット・グレコ)
- キスして(ジュリエット・グレコ)
- 心の叫び(エディット・ピアフ)
- 一生が首飾りなら(リオ)
- 夏だった(リオ)
- 恋歌(ゼット)
- 昼間通りと天国通りの街角で(リオ)
- バルバラ(イヴ・モンタン)
- 枯葉(コラ・ヴォーケール)