GIORNALE DEL MAMMA AIUTO!トトロの森のどうぶつみき
2015.09.01 マンマユート便り Vol.10
9月になりました。夕方、井の頭公園のまわりではヒグラシが名残惜しそうに鳴いていて、夏の終わりを感じます。
さて、ショップでディスプレイに使っている陳列棚や小物は木製のものが多いのはご存知でしょうか。
レジに置いてあるテープカッターやペン立ても木でできていて、オープン当初から毎日使っているもののひとつ。
壊れることもなく、むしろ良い風合いがでてきました。
木はお客様やスタッフが触れる場所だけ、木肌が滑らかになり、触り心地も良いのです。
木目の独特な模様やくぼみに、いちはやく反応するのは子どもたち。
不思議そうに指で溝をなぞったり、木の割れ目に何かモノを挟んでは、見せてくれたりします。
ショップにお越しの際は是非、年月で磨かれたディスプレイ棚や小物たちにも、触れてみてください。
お買い物の合間に、楽しい発見があるかもしれません。
手のひらで森を育む―――【トトロの森のどうぶつみき】
丸や四角、三角の形を、積んだり、並べたり、崩したり。
子どもの頃の積み木遊びを、赤や黄色などそのあざやかな色とともに
思い出される方も多いのではないでしょうか。
しかし今回ご紹介する積み木は、木目がくっきりとした自然のままの状態です。
さまざまな森の動物やトトロの形にくりぬかれた、【トトロの森のどうぶつみき】。
その無垢な眼差しに見つめられると、なんだか木々のざわめきが聞こえてきそうです。
木が持つ不思議なちからはいったいなんなのか.... 彼らのふるさと「飛騨高山」まで出かけてきました。
▲トトロの森のどうぶつみき...¥10,000(税別)
木と向き合って40年
今回おじゃましたのは、飛騨高山に工房を構えるオークヴィレッジさんです。
40年前から再生可能な資源である木を材料にした製品作りを行なってきました。
創業当時の日本は、高度成長期の真っ只中。しかし、一貫した理念でモノ造りを続けてきた会社です。
そのうちに、極限まで登りつめ疲弊した消費社会のほうが
その考え方に追いついてきたかのようです。
まず、同社の佐々木一弘さんに木への取り組み方をうかがいました。
▲【オークヴィレッジ株式会社 常務取締役 佐々木一弘さん】
昭和43年生まれ。20年前に入社、数々の製品の意匠設計に携わる。
近年では東京・自由が丘ショールームでセミナーなどを開催。
オークヴィレッジさんは、お子様用のおもちゃ、積み木、木琴などの商品を作ってらっしゃいますが、
はじまりはどのようなものだったのでしょうか?
佐々木 今年ちょうど創業40年なんです。
長く時間をかけて育まれた素材は大事に使おうということで、
「100年かかって育った木は、100 年使えるものにしよう」というスローガンを掲げ、
適材適所で材料を使い、独自の作風で注文家具を造るのがはじまりでした。
家具を造るととうぜん端材が出ますので、それも大事に活かそうと、小物作りのほうに広がっていったのです。
おもちゃなどは木を無駄なく使いたいという気持ちから生まれたのですね
佐々木 ええ。創業当初は循環型社会のようなことを提唱しても理解してもらえなかったのですが、
1980 年代の後半ぐらいにようやく関心を持ってもらえるようになってきました。
近年は木の小物への関心も高まってきているようです。
ジブリ美術館との最初の取り組みも、小さな木のおもちゃからはじまりましたね。
佐々木 そうですね。最初は、木の鈴《MOKURIN》のオリジナルトトロを作らせていただきました。
三種類ありますが、木の種類によって音がちがうことや、
中に鈴を入れるために切断した継ぎ目がまったくわからない木工技術にもおどろきました。
佐々木 僕らはこの40年の間、素材を研究し、さまざまな技術を追求し、常に考えながらやってきました。
木にはなにか不思議な魅力があって、それ自体がいいというか、理屈じゃないんですよね。
生理的に「私は木が嫌い」という人はいないじゃないですか(笑)。
▲コースターには裏庭の桑の葉が使われていました
日本の木の表情とは
佐々木 日本人は木を上手に使って暮らしてきた民族で、遡ると縄文時代くらいからの話になります。1万3千年も前です。
ヨーロッパなどでは石とか鉄の製錬の歴史がありますが、日本はたまたま気候帯の関係でものすごく森林資源が豊かなんですね。
北から南まで背骨のように山脈がとおる非常に豊かな植生と四季があり、木という存在は身近なものだったのではないでしょうか。
偶然といいますか、日本列島は絶妙の姿であったわけですね。
佐々木 そして昔から「里」と「山」とのあいだに、「里山」という緩衝帯があることで、
生活に必要な材料を里山でまかなう《里山文化》をうまく構築していたんですね。
ですから日本は豊かな植生もありつつ、山自体に手を入れないで白神山地のような森林生態系を残すことができたわけです。
昔話の「おじいさんが山に柴刈りにいった」、という「山」も「里山」のことなんですよ。
本当の「山」へは、よっぽど何かない限りは分け入らないんです。
なるほど。山に神秘を感じているような捉え方ですね。
佐々木 日本全国に神社がありますけれど、祠に行くまでより、
その手前の鎮守の森に意味がある、という説もあります。
日常から非日常の境界が森で、そこにこそ神がいる、と感じる、
理屈抜きのそういう感情がずっと受け継がれている......不思議なものですね。
オークヴィレッジさんでは日本の木材のみを使用されていますが、それはなぜですか?
佐々木 木工はローテクですから、一般的には、木を切って、それが運ばれてきて、
製造、乾燥、正確に削りだし加工して、組み上げて、塗装、という流れです。
そのなかでエネルギーコストがいちばんかかるのは、じつは《輸送》だと思っています。
ですから、国産材しか使わないんです。
でもそれ以上に僕らが国産にこだわる理由として、「表情が豊かだ」ということがあります。
クラフトを作る立場で言えば日本は広葉樹の種類が多く、
またそれぞれ「この木は硬くて粘り強い」とか「この木はやわらかい」など、すごく個性豊かです。
日本人になじみのある手ざわりのいい木を使うということや、二酸化炭排出量の軽減などを総合的に考えて、
あえて国産にしているのはそういった理由からです。
表情のちがいはどこからくるのでしょうか?
佐々木 日本の広葉樹は植林された歴史がほとんどなくすべて山に自生した木です。
そうすると日当たりの良いところでスクスク育つわけではなく、
植物が密集し日が当たらなくてもちょっとずつ成長し何百年もかけて育つんです。
そういう木は年輪の間隔が詰まっていて個性的なものが多いので、
板にしたとき非常に素敵な木目が出るんですね。
海外の木は情緒がないとは言えませんが、早く育つと年輪の間隔が粗く
条件からみれば間違いなく日本の木材のほうが表情豊かです。
その繊細な味わいは、積み木のような小さなものこそ非常におもしろいものに仕上がると思いますね。
▲トトロにもさまざまな木目
木のぬくもりを引き出す職人の感性
これまでのお話から、木への寄り添い方がとても繊細だと感じました。
その感覚をどのように製品化に結びつけておられるかおきかせください。
佐々木 飛騨は木工の町で、家具メーカーが数多くあるのですが、
当社以外はだいたい《工場》で、こちらは《工房》なんですね。
その違いは、《工場》というのは効率を重視する合理性のために
工程ごとに分業し担当が分かれている、ということです。
でも僕らは少人数のチームをつくり、この木目ならこう使えばとか、企画から製作まできめ細かく向き合います。
やはり自分たちの作品への思いも強く、どんなお客様がどう使うか、いつも気になっています。
先ほど木を切り出す工程を拝見しましたが、木目を選びながらひとつずつ手作業で切り出す位置を決めているのですね。
佐々木 木それぞれに雰囲気があるんですね。その雰囲気をどう形にするか。
木でなくていいものを作る必要はないわけですので、"木だからこそ"というところに昇華させたいのです。
空気感を大事にしていてるのですが、そういうものはディテールから醸し出されるんです。
細部のこだわりからにじみ出るものがあるということでしょうか?
佐々木 僕らが扱うのは広葉樹が多いのですが、広葉樹は製品として使える木になるまでに最低でも50~60年、
家具用の材料ですと100年とか、ものすごく長い時間をかけて育まれる素材です。
それに対するある敬意をもって、木の良さを最大限引き出すようなものを作りたいと思うんです。
人の目とか手の入る工程をどこかに必ず残すことで、味を大事にしていきたい。
手で切り抜いて面をとった見た目の効果というのは、ある種の不安定さというか、
そこがぬくもりにもつながっていくと思っています。
▲ひとつひとつ手作業で形が抜かれていきます
手でしかできない工程が、木の持つ雰囲気を活かすことにつながっていくのですね。
佐々木 さきほど木の個性の話をしましたが、僕らは《適材適所》という言葉を使います。
木には向き不向きがあって、向きを活かすようなことを常に考えています。
たとえばブナという木は、とてもねじれに強く細くしても折れにくいし
力がかかっても大丈夫なので、イスの足などに向いているとか、それぞれいろいろあるんです。
また、広葉樹でもサワクルミという木は林業の人はすごく嫌うんですよ。クルミの仲間なのでアクが強くて周りの木を困らせます。
さらに精密な加工ができないくらい木質がスカスカなんです。
パルプ原料では重さあたりで金額が決まりますから、体積はあるのに重さがないサワクルミは、運んでもお金にならない。
それでものすごく嫌われているんですね。
でも僕らがそれを預かってきて材料としてみると、やわらかくて桐みたいにサックリしているので、
引き出しの底板にすれば水分を吸って良いかもしれない、と思い、使ってみました。
【どうぶつみき】には、どんな木が使われていますか?
佐々木 ホオ、クリ、シラカバ、ナラ、サクラなどです。
じつはシラカバは木材として使われてきた歴史が日本にはほとんどありません。
フィンランドなどでは突板や合板にして木製品に使ったりしますが、
柔らかいこともあってあまり家具には使われないのです。
でも3~4年前から材料にならないか取り組みを考えはじめ、積み木にも使っています。
なるほど。シラカバやサクラなどは、街路樹で見たりはしますが、
積み木なら木目や香りを身近に感じられるのですね。
佐々木 僕らは天然の素材を天然の仕上げで、ということにこだわっているわけですが、
木という素材に敬意をもって最低限の手を入れるという意味で、
色をベタベタ塗ったりケミカルな処理をしたくありません。
やはり木という素材を生活のなかで長く使っていくようにするためには、
先ほど言った《適材適所》で、向き不向きを見ながら、
向いているところに向いているものを使うことが大事です。そこは常々意識しています。
【どうぶつみき】も無塗装で、木の素材の魅力がそれぞれから感じられますね。
佐々木 最初につみきを無塗装で出すというとき、社内的にはすごく議論がありました。
木の製品は無塗装ですと、夏場の暑いときに触ると指紋がついて消えません。
しかし、汚れがつかないように化学系の塗装をしていくと、もともとの木の良さは損なわれていきます。
木の良さはやはり手触りですから、それを味わってもらおうと思ったらそのままがいちばん良いわけです。
僕らはあえてそれが木の良さということで前面に押し出しているのです。
▲オークヴィレッジの商品のひとつ【寄木の積木】
おわりに―――木とともに100年先まで生きてゆく
オークヴィレッジさんの木の商品は、新品よりも使い込まれた古いもののほうが魅力的に感じます。
店頭に出しているサンプルを欲しい、と言われるお客さまも多いんですよ。
佐々木 僕らの商品は、お店に並んだときが最高に美しい状態ではなくて、
10年後にもっと良いものになってほしいと思って作っているんです。
たとえば、トトロの目の部分は焼き印で加工していますが、ここを印刷にすればもっと早くできるかもしれません。
でも印刷はだんだんとかすれていきますよね。焼き印であればしっかりとなじんでいきます。
▲飴色に変わってきた店頭サンプル
長いスパンでとらえて、ものづくりに取り組まれているのですね。
佐々木 そのために大切なのは、技術の継承だと思うんですね。
100年前には、まる一日かかった作業も、今日では機械で5分でできるということもありますが、
日本の伝統的な木工技術を継承しつつ、それを時代にあわせて進化させていくということも必要だと思っています。
技術があってこそ、長く使える良い物が作り続けられるということですね。
佐々木 僕はやはり木は木として、消耗はしていきますけれど、
長く愛着を持っていくのがいいと思います。漆などは適宜塗りなおしていけばずっと使えますし。
生活のなかで手間はかかりますが、そういう概念をもう一度、芽吹かせていけばいい。
食卓には必ず漆のお椀がある毎日とか、そういうふうになってくれば何かが大きく変わると思うんです。
そのために、長く使える良い物を作り続けていかなくてはいけません。
【どうぶつみき】も、ずっと遊んで、また次の世代に受け継いでいけそうですね。
佐々木 木の品物を通じて、まずは木への関心をもってもらい、
「木っていいよね」というような気持ちからはじまり、
時間をかけて森そのものへと段階が進んでいけばと願っています。
木の製品を作ること、そして使うことは、"今、ここ"を生きる私たちとは違った、
遠大な"木"の時間軸に寄り添うこと。
【トトロの森のどうぶつみき】も、これを手にする人にとって
そのきっかけになるものなのだと改めて気づかされました。
今日はありがとうございました。
(2015年7月28日、岐阜県飛騨高山、オークヴィレッジにて)
今回ご紹介するのはオークヴィレッジさんのつくる木の商品です。
「トトロMOKURIN」 3種... 各1,500円(税別)
かえで、けやき、さくらの三種類の木を使って作られた、どこか温かみのあるトトロの木鈴です。中にはかえでの木の玉が入っていて、耳元で揺らすとカラカラと優しい音。40以上の製作工程を経て生まれる無垢の木のトトロには、高度な木工技術と職人のこだわりがたくさんつまっています。鈴の音の響き方は、木の種類や季節によって変わります。聞き比べてみるのも楽しいかもしれません。
「オリジナル箸」 ... 2,400円(税別)
軽くて使いやすい、すだじいという木を使用した箸。生漆を丁寧に2度塗り込むことで独特の光沢を帯び、美しく丈夫に仕上がっています。よくみるとクロスケの焼き印が。オーガニックコットンでできている箸入れは、小さなトトロのチャームがポイント。包んで持ち運びもできるので、とても便利です。
「オリジナルストラップ」 ... 1,000円(税別)
木を削り出してつくったトトロと葉っぱのストラップ。小さいながら木目の出方もひとつずつ異なる味わいのある一品です。台紙は、トトロのシルエットが切り抜かれた薄い木の板。しおりとしてもお使い頂けます。
「木のしおりセット」 3種 ... 各550円(税別)
図書閲覧室トライホークスで販売しているこちらのしおりは、日本人に馴染み深い、かば・とどまつ・ひのきの3種類の木を薄く削ったもの。美しい木目や、木のしおりならではの柔らかな質感を感じられます。スタジオジブリ作品のなかに出てくる名台詞とともに、お楽しみください。
※商品は品切れの場合がありますので予めご了承ください。