GIORNALE DEL MAMMA AIUTO!自分だけの時間をたのしむ――天空の城ラピュタ・クラフト腕時計
2018.03.01 マンマユート便り Vol.19
3月になりました。ショップの出口付近は窓が多く、お天気の良い日は明るい陽だまりに包まれます。
お買い物中のお連れ様を待つ方や、ここでひと休みをする方も、春先はとても気持ちがよさそうです。
左右ガラス張りの窓の向こうに見えるのは、カフェデッキの賑やかな様子や、屋上へとつながる螺旋階段のある風景。
パン種の形をした雨どいに、ちょこんと乗っている金色のタマゴ姫を間近に見られるのもこの場所からだけです。
ショップに立ち寄られた後は、ほっと一息、ここからの景色に心癒されてみるのもいいかもしれません。
自分だけの時間をたのしむ―――天空の城ラピュタ・クラフト腕時計
『天空の城ラピュタ』に登場するタイガーモス号とロボット兵。
ある時は主人公たちに寄り添い、またある時には空を駆け巡り活躍します。
これらをモチーフに、金属の質感たっぷりに仕上げられたハードなアイテムが生まれました。
一見すると手首に巻くちょっとごついアクセサリーのようにも見えますが、じつはこれ腕時計なのです。
一般的な腕時計は、数字や目盛りがわかりやすく文字盤にデザインされています。
でも今回ご紹介する腕時計にはどこに文字盤があるのかさえ、ちょっとわかりませんね。
そんな一風変わった手造り腕時計を生み出し続ける工房、JHA & Co.代表の篠原康治さんにその秘密をお聞きしました。
▲ジブリ美術館オリジナル腕時計「天空の城ラピュタ タイガーモス(奥)」「天空の城ラピュタ ロボット兵(手前)」 各22,000円(税別)
創作腕時計のパイオニア
篠原康治さん 商社勤務時代に香港における時計製造の手法を知り約30年前に独立、東京・吉祥寺で手造り腕時計専門店を開く。オリジナルのデザインのほか、アニメーション作品とのコラボ製品なども手がける。
こんにちは。本日はよろしくお願いします。
早速ですが、篠原さんにつくっていただいた『天空の城ラピュタ』をイメージしたオリジナルウォッチは、インパクトのあるデザインですね。
篠原 美術館で販売するクラフトウォッチなので、パっとみてすぐに「ラピュタ!」ってわかるようなものを考えました。
実は着けごこちとかは割と犠牲にしているんですが、
アニメーションの世界観がちゃんと出ている、という全体の雰囲気を大切にしました。
▲制作前に描かれたイメージ画
"クラフトウォッチ"というものはあまり聞きなれないのですが、手造り時計ということですね。ご自身でつくり始めたキッカケはどのようなものだったのでしょうか。
篠原 僕はもともと商社に勤めエンジニア的なことをやっていたんです。ある時、香港へ出張中に時計屋さんで実際に時計をつくる現場を見たのですが、小さな部屋でラフな感じで並んでつくってて。
あ、これなら僕にもできるかなと。それがすべてのはじまりです(笑)。
▲篠原さんの作業机。繊細な部品がところ狭しと置いてある
そもそも時計には興味があったのですか?
篠原 大好きでした。ただ、少しヘンテコな時計が好きで、香港のナイトマーケットで、200円とか500円くらいで売っているものをよく買いました。
高級品のお店もいっぱいあったんですが、僕が興味を惹かれるのは別でしたね。
ヘンテコというのは、どんな時計でしょうか。
篠原 そうですね、まぁなんていうか、洒落がきいたようなものや、危ないコピー品とかもあるんですね。
僕はそういうのを買って、よく上司に「お前またそんなもの買って、時計屋でもやるつもりか」って言われてましたが、ほんとにこうなれるとは(笑)。
香港の時計というのはどのようなものだったのでしょうか?
篠原 時計産業では、世界的に第一位が日本です。二位がスイス。
三位が香港なんですが、生産数で言うと、実は香港が一番多いんです。
香港には関連工場がいっぱいあり、文字盤ばかりつくっている文字盤屋さん、針だけつくっている針屋さん、ケースをつくっているケース屋さん......と分業で工場がいっぱいあるんですよ。
僕が習ったのはその香港のやり方です。要するに、僕は組み立て屋さんってことですよね。
様々な部品を手に入れて、日本で時計作りを始められたのですね。今から30年ほど前のことだったと伺っていますが、最初は日本には流通システムも窓口もなかったのでしょうか?
篠原 そうですね。当時、日本に時計学校はなかったですし、僕のように自分で時計をつくるという人もほとんどいなかった。
だから自分で学ぶしかないな、と手探りで始めたんです。
やっと少しずつ認知され、今では自分も時計を作りたいという若い人がたくさん出てきました。
▲篠原さんのお店に並ぶ作品群
道なき道をつくる苦労を乗り越えて、日本に"クラフトウォッチ"という分野を開拓されたわけですね。
そこまでした一番の動機は何だったのでしょうか?
篠原 時計の機構が好きだったということですね。それと何よりも自分の好みでつくれる、ということが一番の魅力でした。
組み合わせて好きな表現につくり替えたり、いろんな企画ができるなって。
あまり実用的でないへんてこな面白い時計があってもいい。
高級品はスイスの時計や日本のメーカーにお任せして、自分は気軽で面白い時計をつくりたい、と思ったんです。
機械式時計の魅力
篠原さんがこころ惹かれた時計の世界。
その機構にはどんな魅力や面白さがあるのか、教えていただきました。
初めに美術館オリジナル時計をお願いしたのは、2015年の企画展示「幽霊塔へようこそ」展の時に、歯車の装飾がついた懐中時計でしたね。
篠原 そうでした。ジブリ美術館さんからお仕事がきてうれしかったですよ。
ジブリのものをつくれるって。
ただ最初は時計塔がモチーフだったので、「ラピュタとかじゃないんだ......」って(笑)。
ははは。そうだったんですね。
企画展示パネルのなかで宮崎監督は、「風車は好きだ、水車も。でも時計のような精密で複雑なものは自分にはつくれないけど歯車に憧れた」というような言葉で時計への想いを表現していますが、
篠原さんの作品も歯車が多く使われていますよね。
機械時計好きのみなさんが魅力を感じているのは、そのあたりでしょうか?
篠原 もちろん歯車がかみ合って動く、というのは魅力のひとつです。
見ただけでちゃんと動く歯車か、絵で雰囲気をだしただけの飾り物かどうかはすぐにわかります。
時計を勉強して楽しいのは、その機構、メカニックです。
からくりの構造がちゃんとわかることが面白いのですね。
篠原 はい。例えば和時計を見ていても、あっ、ここに動力が伝わりこの部分を動かす仕組みだな、と紐解いてきちんと動くのは、面白いですね。
あとは機械時計の一番の魅力は、「脱進機」だと思っています。
「脱進機」とは......?どういうものでしょうか?
篠原 例えば、チョロQというゼンマイ仕掛けの車の玩具はひっぱって離すと、ピュッと走っていきますよね?
でも「脱進機」(だっしんき/雁木車とアンクルという二つの爪)をつければ、ゼンマイの力をゆっくり少しずつ開放できるので、もっと長い距離をゆっくり進むことができると思います。
歯車が一定の間隔で回転し続ける仕組みで、欠かせないものなんです。
雁木車の歯車の歯を一個ずつ送っていくので、「カチ、カチ、カチ......」と間隔の進み方を一定化できるんです。
この役割を「調速機」と「脱進機」の二つの機構が担っているんです。
つまり時計が正しく時間を刻むための心臓部分ですね。
大きな時計塔にはいっている時計も腕時計も、仕組みは同じですか?
篠原 同じです。ただし、腕時計は振り子が使えないんです。
置き時計とちがって手に着けると動いちゃうわけだから。
その代わりに「テンプ」と言うリングが行ったり来たりをするんですよ。
僕が知っている限り「脱進機」には100種類以上あるのですが、最初に考えた人が誰なのか未だにわからない。
からくりがきちんと機能するためにはさまざまな発明があるのですね。
篠原 設計図通りにつくったってなかなかうまく動かないんですよ。
材質とかにもよりますが、うまくいけば動く。そうすると、「かっこいい、やったー!」って思うんです。
一番、ロマンチックな脱進機にガリレオっていうものがあるのですが、ガリレオの脱進機が動く時の、しびれる具合ね。あぁ動いた!って。
単なるオブジェじゃなくてちゃんと「機能」するんだって、感動です。
僕の機械式時計への敬愛の気持ちは、この「脱進機」という機構の魅力だと思っています。
理想の時計を目指して――――豊かな時間とは
脱進機が心臓のように動き、狂うことなく時を刻んでいくこと......そのメカニックが時計の魅力だということがわかりました。
さらに篠原さんのものづくりへのこだわり、理想とする時計への想いについてお伺いしました。
篠原さんは腕時計という装身具を、どう捉えていらっしゃるのでしょうか?
▲この日の篠原さんの腕時計
篠原 僕は時計屋なのでこじつけなんだろうとは思いますが、
時計が他のアクセサリーや装身具と違うのは、"それを見る必然性がある"ということなんです。
「今何時かな?」って、忙しい人ほど、日に何度も時計を見るんですよ。
なるほど。確かにアクセサリー類は他人から見た自分を飾るものですが、時計は自分自身が見るものですね。
篠原 そうなんです。毎日時計を見ている時間を、一週間、一か月......と集約すると、
その時間はどこかの美術館で一日を過ごすのと同じくらいの価値になる、そう思っています。
いい時計をしている人は絶対にいい時間を過ごしていると。
なるほど。まるで芸術品のような時計ならば、芸術品と同じように人生を豊かにしてくれるということなんですね。篠原さんが考える理想の時計とはどういったものなのでしょうか?
篠原 いい時計は何か、というのは、人によってまちまちだと思いますが、
できれば見た瞬間に、「時間はどうでもいいや」ってなっちゃうくらいの時計を作りたいです(笑)。
矛盾しているようで、充実した時間とは、そんなことかもしれないですね。
篠原さんが作られたラピュタの時計も、たくさんのラピュタらしい要素が詰まった唯一無二の時計になっていますね。
▲文字盤はここでした
篠原 普段からゴテゴテしたものを好んで、おぉかっこいいなぁってつくり続けてきたわけですが、
1から12までの数字がスッキリ並んでいるだけのシンプルな実用第一の軍用時計を見ると、
これが時計じゃないか?、とも思うんです。もう、結論は出ているよねって。
でもシンプルなものをつくっていると、また装飾こそが魅力だと思い、ゴテゴテやりたくなる。
行ったり来たりするんですよ(笑)。
答えがない世界を、行ったり来たり......。まるで振り子......脱進機みたいですね(笑)。
篠原 そうですね。何が一番美しいのか?
よくスイスの高級時計宣伝文句で、"飽きのこないデザイン"、なんてあるでしょ?
でも人間は絶対に飽きるものなんで。
だから、使い分ければいいんです。
時計好きのコレクターで趣味がいい人は、遊びの安い時計もすれば、高級品も身に着けます。
そういう人はほんとに時計好きなんだなって、なんとなく感じるんですよ。
TPOや気分にあわせて使い分けることができるのは、とても充実した気持ちになりそうです。
篠原 そうですね。うちの時計は雰囲気重視です。
時計の選択肢のひとつに、そんなちょっと個性的な時計があってもいいと思っているんです。
そして、使う人の時間が少しでも豊かに感じられる面白いものがつくれたら、そんな風に思って時計をつくり続けているんです。
時計は、豊かな人生を過ごすうえで大切なアイテムの一つだという篠原さん。
最近はスマートフォンなど便利で合理的な道具があり、無駄をなくしてしまいがちですが、
無駄なようなものこそ豊かさの象徴なのかもしれません。
改めてお気に入りの腕時計でたのしくなる時間を感じたいと思いました。
今日はありがとうございました。
(2018年1月23日、東京・吉祥寺にて収録)
今回、上映中の美術館オリジナル短編映画『ちゅうずもう』にちなんだ商品をご紹介します。
決まり手湯呑み ...1,500円(税別)/決まり手手ぬぐい ...1,200円(税別)
ねずみたちによる相撲の決まり手が一挙に揃った手ぬぐいと湯呑み。ねずみたちが相撲をとる姿が楽しく、思わず笑ってしまいます。 ところどころにいるカエルの行司も面白いので、是非ひとつずつの絵にご注目ください。相撲好きな方へのプレゼントにおすすめです。
マスコット...850円(税別)
子どもたちにも大人気、赤いふんどしをまいたねずみ力士のマスコットです。おなかをきゅっと押すと「チュウ」と鳴いて、思わず持ち帰りたくなるかわいらしさ。キーチェーン付きですので、お出掛けのお供にいかがでしょうか。
トントン紙ずもうセット...1,200円(税別)
ねずみの力士や土俵が作れて遊べる紙ずもう。ねずみたちにトントンと両サイドから振動を与えると、相撲をとっているかのように、にじりより勝負が始まります。応援席の観客やきつね、たぬきの切り抜きが、楽しい雰囲気を演出し、遊び始めると子どもから大人まで、思わず真剣になってしまいます。ぜひ、映画のあとは実際に紙ずもうで遊んでみてはいかがでしょうか。