Where things are bornやちむん×ジブリ美術館
2021.03.22 ものがうまれるところ Vol.1
沖縄では焼き物のことを"やちむん"と呼びます。赤土を使って作られ、手に取るとどっしりとした重みを感じる器。沖縄の風土から生まれた"やちむん"の魅力は、その大らかさにあると思います。
"やちむん"の持つ大らかさ、風合いは、ジブリ作品に通じるものがある。そう考えて、ずっと一緒に物づくりがしたいと思い続けていたのですが、前田薫さんと出会い、念願叶うこととなりました。
今回、前田さんの工房を訪ね、クロスケのいる"やちむん"が出来るまでのお話を伺いました。
陶工 前田薫さん
前田さんの工房は「やちむんの里」として知られている、沖縄県中頭郡読谷村にあります。18歳で読谷村北窯の宮城工房に入り、5年間の修行。その後、他の工房で経験を積み、2000年にご主人と共に「田陶房」を開きました。2021年現在「Rururu陶房」を主宰。
やちむんの絵付けには、「点打ち」や「イッチン」「唐草」「飛びカンナ」といった技法があります。前田さんの作る器にはこの技法が多く持ち入れられています。
完成に至るまで
「ジブリ美術館から制作の依頼があったとき、すぐに絵柄のイメージが浮かんだんです。この3つの淡い丸い模様の間にクロスケを描くと、クロスケが水色、飴色、緑色の金平糖を食べているように見えるのではないかと思いました。」
器の形とデザインが決まるまで約半年かかりました。試作では、お皿の他にマグカップや小鉢なども制作されましたが、まずは使いやすい「皿」を作ることになりました。大きさは3種類。4寸、5寸、7寸の日常、食卓で使いやすいサイズです。
絵柄は、前田さんが一番最初に思い描いた通りのものに決まりました。
金平糖に見立てた水玉模様に使われた「点打ち」は、筆で色を載せていく技法です。
輪郭線が淡く描かれるのに対して、クロスケは「イッチン」というスポイト技法が使われており、輪郭線がはっきりしています。
「シンプルなのに、とても難しいんです。色をのせすぎてしまうと、焼いたときに絵の具が流れたり、まだらになってしまいます。目の位置を少し変えただけでも表情が変わってしまいます。」
制作当初は、検品ではじいてしまう器が多かったそうですが、道具を工夫し、絵付けも安定してきたそうです。
それでも、ロクロで形を整え、絵付けをして、焼きあがるまでにはいくつもの工程を経なければならず、また、天候によって土の状態が変化するため、制作にかかる期間も時期によって変わります。大量生産はできないのです。
「やちむんはふだん使いの器なんです。日常の中で使ってもらいたいと思っています。私が作る器に『ハート』のマークを絵付けすることがあるのですが、料理を器に盛って、食べていくとハートが現れる、子どもたちが食べるときにそんな楽しみが器にあったら楽しいだろうと思って作っています。クロスケも同じです。」
同じ技法を使っていても、同じ皿はひとつとしてなく、1枚ごとに表情が違います。お皿を手に取ると、クロスケと目があうことがあります。もちろんクロスケも同じものはひとつとしてありません。
器を楽しみ、食事を楽しむ、そして、それが毎日の豊かさにつながっていくのではないかと思います。