Where things are born
ミナ ペルホネン×ジブリ美術館 第2弾『TOTORO forest parade』


前回の「ものがうまれるところ Vol.2」では、ミナ ペルホネンのデザイナー 皆川 明さんと、ジブリ美術館 安西香月館長の対談を通して、『kakurenbo TOTORO egg bag』誕生の経緯やものづくりへの想い、商品に込められたストーリーをお届けいたしました。

そしてこのほど、第2弾のコラボレーションアイテム、『TOTORO forest parade』が完成。
森の住人をテーマにつくられた"forest parade"にトトロがふんわりと揺れる、刺繍レースが魅力のアイテムです。

そこで今回は、ミナ ペルホネンのレースを作っている「神奈川レース株式会社」におうかがいし、制作の工程とそのこだわりを教えていただきました。

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オリジナル TOTORO forest parade カドルパース/48,400円(税込)


『TOTORO forest parade』のはじまり

『TOTORO forest parade』は、ミナ ペルホネンを代表的するテキスタイル"forest parade"からデザインが展開されています。
一見するとかたまりのように見える細やかな刺繍の房は、植物や鳥などの37種類ものパーツが連なってできています。
2005年春夏コレクションで発表されて以来、大切に紡がれてきた、ミナ ペルホネンにとって思い入れのあるデザインだそうです。


forest parade.pngphoto by Mie Morimoto
元となったテキスタイル"forest parade"(くわしくはこちらをご覧ください)

kanagawalace1.jpg森の住人たちの賑やかなテキスタイルに、トトロが仲間入り


1995年のブランド設立時より、ミナ ペルホネンのレースを作っている「神奈川レース株式会社」、ご担当の佐藤 敏博さん(以下、佐藤さん)に、制作の工程とそのこだわりを教えていただきました。


kanagawalace2-2.jpg神奈川レース株式会社 佐藤 敏博さん

『TOTORO forest parade』が生まれるまで <図案を読み解く→パンチング→サンプル制作→本生産>


図案を読み解く

まずは、皆川さんがデザインした『TOTORO forest parade』の図案をもとに、佐藤さんが実際にレースにしていくイメージを膨らませていくところから始まります。
図案には、刺繍での表現方法などの要望も、細かく書き込まれています。

「レースといえば均一でハリのあるものが主流ですが、ミナ ペルホネンさんの"forest parade"はそれとは真逆で、繊細な線と柔らかな表情が、他にはないレースです。」と語る佐藤さん。


kanagawalace3.jpgトトロの目の表現方法に注目


kanagawalace4.jpg手描きの線を、できる限りそのまま刺繍レースで表現することを目指します


今回の『TOTORO forest parade』制作にあたっては、映画『となりのトトロ』を何度も見返し、毛の質感や目のかたちなどを研究してくださったそうです。

「風が吹くように」といったような風雅な指示も、長年の取り組みの中で、意図を汲みとり形にすることができるようになったのだとか。 図案の中からも、これまでのミナ ペルホネンと神奈川レースの歴史の積み重ねを感じます。


パンチング


つぎに図案を6倍に拡大し、絵を描くようにステッチひと針ひと針の動きを入力していきます。実際に手で刺繍をしていくイメージで、針を刺す順番をデータ化していくのです。これを「パンチング」といいます。

kanagawalace5-2.jpgデジタイザーで針の動きを記録しているところ

トトロの部分だけでも何千回ものステッチが必要で、気の遠くなる作業です。
ですが、刺繍の仕上がりを左右するとても大切な工程。
どのように針を運べば、表現したいものが出来上がるかを想像しながら、慎重に行っていきます。

サンプル制作

データが完成すると、見本機と呼ばれる機械でサンプルを作成します。仕上がりを見て、イメージしていたものと少しでも異なれば、再びパンチングをやり直し、またサンプルを作成し......納得のいくものができるまで試行錯誤を重ねます。


kanagawalace6.jpg見本機でのサンプル制作

今回特に苦労した点はトトロの目の表現だったそう。

「少しのサイズ、かたちの違いで全く顔の印象が変わってしまうため、トトロのパーツだけでも10回以上のやり直しがありました。」
デザイナーと制作者の双方が完成に納得のいくまでつきつめていく、二人三脚の作業です。


kanagawalace7.jpg修正が繰り返されたトトロのパーツ



本生産

そしていよいよ本生産へと入っていきます。
15mほどの長い生地の上に、ひと針ひと針、ゆっくりと刺繍が施されていきます。



kanagawalace8.jpg上下段に分かれた大きな機械


kanagawalace9.jpg針は固定され1箇所を刺し続けます。プログラミング通りに動くのは、生地のほうなのです


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ひとつのモチーフの同じ箇所を行ったり来たり......。複雑で繊細なステッチがつまっています。

「この機械でなければ、皆川さんの求める、手描きの風合いや揺らぎのある、柔らかなレースは作れないと思います」


さいごに

トトロの毛並みや目の表情について語る佐藤さんから、実在する動物と同じように「トトロ」に注意深く、そして愛情をもって向き合い、丁寧に刺繍で表現してくださったことが伝わります。

すでにミナ ペルホネンの定番テキスタイルとして完成された『forest parade』の中に、これほど自然にトトロが溶け込んだレースが完成したことは、神奈川レースが積み重ねてきた技術と、ミナ ペルホネンの求めるものを理解し、共に追及していく佐藤さんの尽力があってこそのものだと感じました。

作り手の想いがつまった刺繍レース、手に取り、じっくりと見つめてくださると嬉しいです。

(2023年4月20日、神奈川・愛甲郡にて収録)