Where things are born
第4弾 木製ブローチ~森の工房をたずねて


今回の「ものがうまれるところ」では、『魔女の宅急便』に登場する"キキのパンリース"と"マダムのケーキ"をモチーフにした、ジブリ美術館のオリジナル木製ブローチを手掛けている木工作家 深澤すなをさんの工房を訪ね、ブローチの製作工程をはじめ、ご自身のこれまでのことやものづくりについて、おうかがいしました。
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「sunawo na katachi」深澤すなをさん プラスチック成形会社での経験を活かし、木工作家「sunawo na katachi」として、自然をモチーフにしたものづくりをしている


工房のこと、深澤すなをさんのこと。

「sunawo na katachi」の工房があるのは、滋賀県高島市のマキノ町。
琵琶湖や高原など、オールシーズン様々なレジャーを楽しむことのできる自然に囲まれた地域です。
工房の近くにある「メタセコイヤ並木」が深澤さんのおすすめとのことで、取材の前に案内していただきました。

02mono.jpg視界いっぱいに広がるメタセコイヤ並木。2.4㎞にわたり約500本のメタセコイヤが植えられているそう
03mono.jpg取材の日はあいにくの天気でしたが、一瞬の晴れ間に雄大な並木を見ることができました


メタセコイヤ並木からほど近い、森に囲まれた静かな場所に、深澤さんの自宅兼工房があります。

お母さまから譲り受けたというかわいらしいお家、そして緑があふれるお庭は、どことなくジブリ美術館内の中庭「パティオ」に似た雰囲気がありました。


05mono.jpg「sunawo na katachi」の工房。作業机やパソコン、たくさんの木材や工具、そして奥にはなにやら大きな機械が......


深澤さんが木工作家「sunawo na katachi」としてものづくりを始めたのは13年前のこと。
それまではお父さまの営むプラスチックの成形会社で、部品を作る仕事をしていました。

その後、工房の奥に鎮座する大きな切削(せっさく)機を譲り受けることとなったのをきっかけに独立。
切削機を使ってものを作ることを続けたいという気持ちはあったものの、当初は「これ」というものが定まらずにいました。

しかし、ある時この機械を使って木材が加工できることに気が付きます。
家具のサンプルやインテリアグッズ、アクセサリーなど、様々な木工品を手掛けるようになり、色々な人に出会っていく中で、思い描いたものが立体になる面白さに目覚めました。
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「両親も兄も姉も、家族がみんな器用だったこともあって、昔からものづくりの現場は身近にありました。"ものがうまれる喜び"というのは、子どもの頃から知っていたような気がします。」

仕事も、人も、住む場所も、とにかく目の前のことを続けていくことで繋がっていくものがあったと語る深澤さん。
ジブリ美術館との出会いもその一つとなりました。

「初めは、ずっと一人で作ってきたこともあり、他の人が求めるものに応えられるのかという不安がありました。でも試行錯誤を繰り返しながらブローチを作っていく中で、色んな人が関わって一つのものが生まれるという喜びを感じることができたんです。」

そんな深澤さんが作る、切削機を使って作られた木工製品。
製作の流れを見せていただきました。


木製ブローチができるまで


デザインと設計図づくり


07mono.jpg初期のデザインから、かたちや大きさや色、キャラクターの表情、凹凸をだすところなど、細かい修正や提案などを繰り返し行います

08mono.jpgCAD(コンピューターで設計や製図を行うツール)を使って、ブローチの設計図を作ります。特に苦労したのはぷっくりとしたキキのリボンなど、立体になっているところ。思い通りの曲線を描くことが難しいのだそう


切り出し


設計図が完成したら、切削機で木材をブローチのかたちにカットしていきます。

この切削機は NC工作機械といい、素材に対して使用する工具の種類や順番、作業工程を数値情報で指示をすると、その数値を元に製品を削りだしていく「数値制御装置」が備わった機械です。

深澤さんは前職で身に着けたこのNC加工の技術を木材に応用し、自身の作品をつくっています。

09mono.jpg深澤さんの工房にある切削機

11mono.jpg指示を送ると刃物が動きだし、木材を切り出していきます


やすりがけ


ここから先の工程は、機械による作業ではなく、すべて深澤さんの手作業で行われます。
時間をかけて丁寧に、ひとつひとつの作品に向き合います。

12mono.jpg切削機で削り出されたものは粗削りで、バリなどが残っている

13mono.jpgまずべルトサンダーで研磨します
14mono.jpgさらに紙やすりを用いて滑らかでつやのある質感に仕上げていきます

15mono.jpg研磨後。砂糖菓子のようなやわらかな風合いになりました


塗装


16mono.jpg深澤さんの経験上、これまでにない複数の色を調合しているそう。「納得のいく色を作るのが難しく...この時間はとても大変です。」
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仕上げ


18mono.jpg 19-2mono.jpgニスを塗り、乾かせば完成です


さいごに

私たちにはあまりなじみのない機械を巧みに操り、自身の技術と経験を活かした、深澤さんならではの新たなものづくり。

ちいさなブローチに、深澤さんがこれまで積み上げてきたものが詰まっていました。

20mono.jpgジブリ美術館との仕事を「自分にはない扉をひとつずつ開けていく感覚だった」と、笑顔で話す深澤さん


ジブリ美術館では、展示を通して、アニメーターをはじめとする様々な「作り手」技術や想いをお伝えし、つくる人間の心が伝わる展示を目指しています。

展示物と同じように、緑の並木に囲まれながら木を活かしたブローチを生み出す深澤さんがこめた想い、大切な贈り物の一部として届くことを願っています。


(2023年6月30日、滋賀県・高島市にて収録)