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伝説の作品から神話へ
カイが連れ去られる雪の女王の国は、“喜びや苦痛を味わうこともない平安と寒さの世界”、つまり死の国の象徴です。
見方を変えるとこの作品は、生命力の塊である少女ゲルダが靴も何も脱ぎ捨てて、死の国から大好きなカイを連れ戻すというお話なのです。
雪の女王が支配する死の世界から無事カイを取り戻すのは、熱い想い、生命の力が死に打ち勝つ奇跡の瞬間です。
宮崎監督は、『雪の女王』が生命の根源的なテーマを内包していることを、一瞬で嗅ぎ取りました。だから、心打たれ、今なお大好きな作品だと公言してはばからないのです。
監督のアタマーノフをはじめとするロシア版のスタッフは、映像化にあたって、『雪の女王』の原作から、賛美歌や天使、主の祈りといった宗教的なアイテムを徹底的に廃しました。
結果、話は普遍的になり生命と想いの力強さが浮き彫りにされ、ついには神話的ともいえる高みに到達したのです。
神話とは国家や一神教(ここではキリスト教)が出現する以前の、アニミズムに深く根ざした、世界の成り立ち、生命の誕生を解き明かし、人が生きて行くための知恵を説く哲学だという学説がありますが、熱き想いを貫くことで、死にも打ち勝ち、幸福を手に入れるという『雪の女王』が描いたものは、まさに神話的と呼んでも差し支えないでしょう。