本棚より[季刊トライホークス 2013年32号]
2013.04.01
世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。
へびのクリクター
むかしフランスのある町にルイーズ・ボドという婦人が住んでいました。ある日、ボドさんの家に奇妙な丸い箱が届きました。まるで浮き輪のような形をした箱。開けてびっくり、中から現れたのは一匹の〝へび〞でした!
赤い舌を出し、手も足もなくにょろにょろとして、ウロコが光って......。動物園の爬虫類館ならのぞきたくなるし、図鑑もついつい見入ってしまったりしますよね。怖いけれど、こんなに興味をそそる生きものもいないのでは、と思います。でも、それは少し離れていられればの話。プレゼントに贈られてきたら、どんなにびっくりするでしょう。
へびを見たボドさんも「きゃーっ!」とかなきり声をあげました。でも、こわがっているだけではありません。動物園に行きこの〝へび〞についてきちんと調べ、「クリクター」と名づけてとてもかわいがります。ボドさんが先生をしている学校では子どもたちの人気者。子どもたちと遊ぶときだって、勉強するときだって、長くやわらかい体は大活躍です。
〝へび〞は〝へび〞でも、このクリクターとなら一緒に暮らしてみたいと思ってしまう楽しい絵本です。昔話に登場することも多いへびは悪者だったり、神秘的な存在だったりしますが、絵本の主人公だと親しい感じがします。2013年の干支はへび。この機会におすすめしたいと思います。
はるかな国の兄弟
スウェーデンの作家リンドグレーンは、生前『長くつ下のピッピ』や『やかまし村の子どもたち』など、たくさんの作品を生み出しました。今回はこれらの作品とは少し趣を異にした、美しい冒険物語をご紹介したいと思います。
優しくて人気者の兄ヨナタンと、体が弱く臆病な弟カール。2人は幼くして亡くなり、はるかな国の〝ナンギヤラ〞にて再会します。しかし、ナンギヤラの人々は、怪物カトラを操る支配者テンギルに苦しめられていました。少年たちは仲間とともにテンギルに立ち向かいます。
兄弟が亡くなるという驚きの冒頭。続く新しい世界でも、ハラハラする危険な戦いが繰り広げられます。裏切り者が潜むなかで、怪物の住む暗闇の中から指導者を助け出したり、秘密の部屋に隠れて見張りを出し抜いたり......。やがて弱虫だった弟カールは成長し、賢い兄ヨナタンは戦いを勝利へと導きます。しかしこの世界でも、兄弟には衝撃的な〝終わり〞が待っていました。
これは、リンドグレーンが次々と発表した、子どもたちが愉快に暮らすようなお話ではありません。悲しみや苦しみを背負った子どもが、生と死を意識しながらも前向きに、自分の力の限り生きる姿が描かれています。予想を裏切る展開が続くなか、何度も胸がしめつけられ、忘れられない作品として心に刻まれました。
季刊トライホークス 32号(内容紹介)
「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。
- 夢中になって読んだ本
- さくまゆみこ さん。出版社勤務を経て、現在はフリーの編集者、翻訳者。そして、青山学院大学女子短大子ども学科教授として、大学で教鞭を取られています。たくさんの本に関わっていらしたさくまさん。以前、子どもたちにもうひとつの扉を開いてもらえるような本を届けたいというお話を伺いました。さくまさんが選ばれた本は、トライホークスでも紹介していますので、ぜひ手に取ってみてください。著書に『イギリス7つのファンタジー』(メディアファクトリー)、『エンザロ村のかまど』(福音館書店)、『どうしてアフリカ? どうして図書館?』(あかね書房)など。訳書に「リンの谷のローワン」シリーズ(あすなろ書房)、「クロニクル千古の闇」シリーズ(評論社)など多数。
- 連載「エリナー・ファージョン(第4回)」
- イギリスの詩人であり作家のエリナー・ファージョンを4回に亘って紹介しました。日本では、石井桃子さんの訳で『ムギと王さま』(岩波書店)が出版されたのが1955年です。短いお話ですが、耳で聞いても、自分でも読んでも、物語の世界が自分の中に広がってくるのを感じることができるのではないかと思います。
- 山猫だより「楽しい時間をつくるには」
- 美術館の裏側(?)、日常について書いています。32号では、美術館の映画館で映画を観る子どもたちの様子について。「建物があって、展示があって、お客様がいて、スタッフがいる美術館」はまるで生き物のようです。日々いろいろなことが起こります。日誌とはまた違う、美術館の一面をお楽しみください。