本棚より[季刊トライホークス 2017年48号]


世の中にはいろいろな本があります。古今東西、恋物語もあれば、冒険物語もあり、たくさんある本の中から、トライホークスに置かれているおすすめの本とお話を紹介します。トライホークスの本棚の中の一冊から、みなさんの本棚の一冊にしていただけたら嬉しいです。

おそうじをおぼえたがらないリスのゲルランゲ

作...J・ロッシュ=マゾン 訳者...山口智子 画...堀内誠一 福音館書店 1,500円(税抜)

 子リスのゲルランゲは、10匹の兄弟とおばあさんと一緒にブナの林に住んでいました。元気で愛らしいけれど、すこし怠け者でとても強情なゲルランゲは、お掃除をぜったいにしませんでした。ある日のこと、とうとうお兄さんたちが怒り、ゲルランゲを家から追い出してしまいます。ゲルランゲはふりむきもせず、へ理屈をこねながら林の中を進んでいきますが、なんとオオカミの背中の上に落ちてしまい、食べられそうになります。

 このお話を読んでいて愉快な気持ちになるのは、一人ぼっちのゲルランゲが、旅の途中で出会う自分より大きくて賢くて恐ろしげな動物たちを、怖がらないどころか逆に振り回すところです。オオカミやらキツネやらアナグマたちは、ことごとく子リスに手を焼き、知り合いの動物に助けを求めてしまうのです。こうしてゲルランゲは幾度も危険を切り抜け、ちゃっかり自分の家に帰ってきます。ここまでくるとゲルランゲの強情っぷりも気持ち良く感じられます。

 さて結局、ゲルランゲはおそうじをおぼえるのでしょうか。意外な結末には、読み手の年齢や性格によってさまざまな感想が出そうなので、言い合ってみるのも楽しいと思います。堀内誠一さんの手によるゲルランゲと兄弟たち、そして緑のブナの木々の絵もかわいらしくて、新緑から初夏の季節にかけて読むのにぴったりの本だと思います。  

ベルリン1933

著者...クラウス・コルドン 訳者...酒寄進一 理論社...2,400円 *『ベルリン1919』『ベルリン1945』は重版未定

 『ベルリン1919』『ベルリン1933』『ベルリン1945』、このベルリン3部作は、第1次世界大戦末期から第2次世界大戦が終結する激動の時代を生きた、ある一家の物語であり、彼らの目を通して見たベルリンの物語であり、20世紀の根幹を描こうとした歴史小説です。

 第1次世界大戦末期、帝政が終わり、1919年にワイマール共和国が樹立されました。1933年はナチ党が政権を取り、その後独裁体制を築いていきます。そして1945年にナチドイツが崩壊。この物語はタイトルにもある通り、それぞれの時代をゲープハルト家の子どもたち、1巻は13歳の長男ヘレ、2巻は15歳の次男ハンス、3巻はヘレの娘エンネの目を通して描かれていきます。彼らが住むのはベルリンの中でも特に貧しい地区であり、そこでの生活には戦争や政治、貧困......、ありとあらゆるものが覆いかぶさってきます。そうした状況の中、抵抗運動に加わった者もいれば、豊かさに憧れ、ナチ党に入り家を出て行く者もいる、家族の中でも選んだ道はそれぞれでした。

 ベルリンを舞台に描かれた20世紀。ひとつの時代を生きた主人公たちの物語は、"今"がどんな時代なのかを問いかけてくるようです。現在「1933」以外は重版未定の状態ですが、図書館で手に取ることはできると思います。"戦争"と名がつくと敬遠されることも多いですが、今の時代に続く根っこの部分が描かれている物語です。ぜひ手に取ってほしいと思う1冊です。

季刊トライホークス 48号(内容紹介)

「季刊トライホークス」は、図書閲覧室トライホークスで 3ヶ月ごとに発行しているフリーペーパーです。ここでは、図書室の本を紹介するとともに、様々な分野で活躍している方に本の紹介をしていただき、図書室の枠をこえ「本」と出会うきっかけ作りをしていきたいと考えています。

夢中になって読んだ本
翻訳をはじめ、長く子どもの本と関わってこられた福本友美子さんに、本を紹介していただきました。『ラング童話集』『だれも知らない小さな国』......。選んでいただいた本の中に図書室でもおなじみの本を見つけて嬉しく思いました。ぜひご覧下さい。
連載「ロバート・ウェストール(第1回)」
図書室に最初から置かれている『かかし』と『ブラッカムの爆撃機』は、イギリスの作家ロバート・ウェストールによって書かれました。今回の連載では、これらの作品を日本に紹介しウェストールと交流のあった金原瑞人さんに、作家自身のことや作品について紹介していただきます。
山猫だより「今年で100歳」
美術館の裏側(?)、日常について書いています。今年は井の頭公園の100周年にあたります。井の頭公園の端にあるジブリ美術館は、いつも公園とともにありました。